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アイス自販機と、スケートボード

 東京の表参道

 自分にとっては、おしゃれな街で敷居が高いから、渋谷で半蔵門線に乗り換えて、表参道の駅に着いたところで、すでに微妙に緊張感が高まる。

 ホームのベンチは、少し奥まったところにあって、予定よりちょっと早く着き過ぎたので、時間調整のためにそこに座っていた。

 そこから見える位置にアイスの自販機があった。
 それは、「セブンティーンアイス」だった。

アイス自販機

 それは、グリコの自動販売機で、都内だけど川沿いで少しのんびりした空気が流れている自宅近くの道路に、同じ機械が設置されていたことがあった。

 自宅の前の道路は、近所の高校の通学路にもなっているから、登下校の時間になると大勢の高校生が通っていく。朝は川へ向かって、午後は駅に向かって。そして、夕暮れを過ぎた頃には、運動部の一群がコンビニやスーパーの前などにいることも多い。

 彼ら彼女らの中で、運動部らしきグループはなんとなくわかって、寒い時だと、その高校生たちが食べている肉まんなどが湯気も出ていて、通りかかったときに見かけると、ものすごくおいしそうに見える。

 暑いときは、まだ高校の近くのコンビニがなかった頃は、アイスの自販機があって、そこにも高校生の一群がいた。その機械は駐車場のそばにそっけなく立っているように見えたし、アイスの大きさを考えたら、それほど安くもなく、そこから100メートルくらい先のコンビニかスーパーの方が割安に思えたのだけど、特に、暑いときは、高校の門から出てきて、その自販機に吸い寄せられるように向かう高校生が少なくなかったように見えた。

 当時は、学校から最も近いアイスだったから、部活の練習が終わって、着替えて、帰り道ですぐそばにあるアイスは、すごく魅力的で、我慢するのが難しいのではないか、といったことは想像ができた。

 だけど、その自販機があった駐車場のところにはマンションが建ち、いつの間にかアイスの自販機がなくなり、その代わりというわけでもないのだろうけれど、そのそばにコンビニができた。

 自分とは全く関係ないのに、この「セブンティーンアイス」は、17種類というだけではなく、「17歳」にもかかっているような気がしていたから、アイス自販機にとっての青春が終わった気がして、そして、これだけコンビニができる世の中になったら、アイス自販機もひっそりと姿を消したと思っていた。

 だから、そのアイス自販機がまだ健在で、しかも、東京の表参道の駅のホームにあるのは、意外だった。

 それは、とても勝手な思い込みだったけれど、自分の地元でなくなって、それはとても最新のものとは思えない物体が、東京都内でもかなり洗練された街だと思っているところで見かけるのは、なんだかちょっと不思議な気持ちだった。

スケートボード

 そんな自分でもよくわからない微妙な感慨に浸っていると、音が聞こえてきた。

 地下鉄が近づいてくるような大きい音ではないけれど、あまりホームでは聞かない種類の、文字にすれば「ゴー、ゴー」というような硬めで、だけど、それなりに響く音だった。

 ホームの奥の方から、若い男性が5人ほどやってきた。
 それも、全員がスケートボードに乗っている。

 そのファッションは、2020年代には主流になっている少しオーバーサイズで、気のせいかもしれないけれど、私のように都会に慣れていなくて微妙に緊張している人間と違い、肩の力が抜けてリラックスして、そして、なんだか笑いながら、通り過ぎていった。

 片足で、時々、ホームを蹴りながら、だけど、ムキになってスピードをあげるでもなく、スケートボードが遠ざかっていった。

 そのあと、階段では当然降りて、手で持っていくのだと思うけれど、その感じがかっこいいのか悪いのか、よくわからなかったのに、なんだか都会だ…と思っていた。

(自分にとって)ちょっとなつかしいアイスの自販機の前を、スケートボードが通り過ぎていく。

 それが表参道なのかもしれない、と勘違いかもしれないけれど、思っていた。

 



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