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お題【命乞いする蜘蛛】#毎週ショートショートnote

 ある日の事、神田青年は友人の業田を誘い、山登りに出かけました。道すがら神田は繰り返し見る夢について話します。「僕はひどい悪人らしい。血の池でのたうち回る夢をよく見るのです」業田は優しく言葉を返しました。「虫も殺せないあなたが悪人とはとても思えません」
 険しい山道を二人は登っていきました。神田はふと足を止め、傍らの木に巣をかけていた1匹の蜘蛛を捕まえました。「僕はこうして蜘蛛も殺せる」そう言うと神田は、手の平で動きまわり命乞いする蜘蛛をパチンと潰してしまいました。「あの時君が戯れに蜘蛛の糸など垂らさなければ、ただ苦しみに身を委ねていればよかった。あの後何年も業火に灼かれようやく転生できたのですよ」
 神田は業田を山道から突き落とすと、崖下で足掻く業田に言い放ちました。「釈迦の生まれ変わりのあなたと出会えたのも因縁ですね。蜘蛛の糸が切れた時の絶望感を味わうがいい。登ってきてください。何度でも蹴落としてあげますよ」
(410文字)

たらはかに様の企画に参加させていただきます。先週に続き、シンプルなお題ほどかえって難しい。みなさんの作品を楽しみにしています。

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