見出し画像

お題【深煎り入学式】 #毎週ショートショートnote

 世古井宏則は、政治家であり、同時に金亀大学理事長も務めている。政治資金処理をめぐり裏金疑惑の渦中にある世古井だが、金亀大の入学式には例年通り出席、新入生への祝辞の為に登壇した。
「変化の激しい社会における自分の立ち位置をしっかりと把握をしてもらって、立派な社会人として巣立っていただきたい…」自分の事を棚に上げた発言に、会場では「どんだけ面の皮が厚いんだよ」と囁く声もあったが、気にする事もなく、最近凝っているコーヒーの自家焙煎の話を始めた。
「豆の煎り方一つで味も香りも全く変わるのです。浅煎りにすれば酸味を強く感じ、深煎りにすれば苦味が加わる。諸君も自分で自分を如何様にも変化させる事ができる…」
その時、新入生のうち数人が立ち上がり、出口へと歩き始めた。世古井は激昂し叫んだ。「どこへ行く!話は終わっていないぞ!」
 新入生の一人は世古井に向かって言った。「話がつまらなくて眠いので、深煎りコーヒーでも飲んでこようかと」

(410文字)

たらはかに様の企画に参加させていただきます。今回はアイディア不足の苦し紛れでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?