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小説『皆で浴衣で盆踊り 第2話』

二、死体のモデル  天使が幼稚園に通っていた時。お母さんが帰って来なくて、暗闇にいて、バード・マンみたいに、目だけでいて、頭も身体もなくて。明かりの点け方は知ってたのに点けなかった。  ……それ以前は、おばあちゃんがいたんだ。おばあちゃんが死んじゃって、それからだ。お母さんが数日いなくなって、食べる物がなくなって、夜になって、また目だけになって、でも隣の家に助けを求めたり、一人で泣いたりしないで、ずっと座ったまま、目だけでいた。ずっと、待って待って、お母さんが帰って来

小説『皆で浴衣で盆踊り 第1話』

一、バード・マン  天使(てんし)の脳内から、先程、さよならをして出て行った酸素が、回れ右をして、ちょっと帰って来た。視界も、ちょっと晴れてきた。見慣れた保健室の天井。天井は灰色で、白い布を被ったハロウィーンの幽霊そっくりの、でっかい染みがある。そのお化けはリアルで、今にも動き出しそうだった。恐怖で、天使はぎゅうぎゅう目をつぶった。 「まあた、ぶっ倒れたんだって?」  天使が所属する美術部の顧問の先生。先生の声はどこまでも優しい。でも、ぶっ倒れたなんて、あんまりお品のいい

小説『サラブレッド』

「オニイサンってさ、なにしてる人?」 「え、オレ? 警察」 「ふーん、いい身体してると思った……。あれ、アタシって、逮捕されちゃうの?」 「なんで? なんにも悪いことしてないだろ?」 「そうよね。あ、でもコレって、御金貰ったら売春よね」 「じゃあ、御金上げないから」 「……え、ソレはヤダ」 「逮捕して欲しいの?」 「そうじゃないけど……あんまり明るいところで見たら恥ずかしい。嫌でしょ。臭うでしょ」 「いいじゃない、臭うの」 「自分でもさ、夏とか短パンで床に座ってて、立膝とかで

小説『ゴーストの凍ったシャワー』18歳以上向け。閲覧注意。

      第一章  仕事帰り、桜の咲く公園を通った。ベンチに座った。突然、強い花の香りがして、誰かに首筋を触られた。凍ったように冷たい手。飛び上がって振り返った。そこには誰もいない。  二度目は眠りに落ちた瞬間。冷たい手がTシャツの中に滑り込んだ。俺の乳首をいじっている。驚いて目を覚ます。花の香りだけが残った。あの時は公園の花の匂いだと思った。深いスパイシーな香りが絡む。男性用のオードトワレ。  三度目もベッドに来た。手は俺のペニスに触っている。もう一つの手が尻

NEW 小説『ジェフ』

『ジェフ』 Halloweenの夜に  暗いのに急な階段で、僕はもう少しで首の骨を折るところだった。 「ほんとに俺のこと全然知らないんだな」 知らないといけないんですか。僕は済まなそうな顔をしてみせた。彼は何度も自分の髪を掻き上げる。芸能人みたいに。って、芸能人か。 「ですから僕は、クラシックが専門なので」 うるさい演奏が始まった。これでは話ができない。彼はスコッチの氷を長い指で掻き回す。それを何度もやる。氷山は海面に浮いた部分は小さくて、海水に沈んだ部分がずっと大き

小説『超純水みたいに』

     一、  血の気が引くって、こういうことを言うんだろうな……。銀座通りを西に向かって歩く。ちゃんと歩いている。しかし、ほんとは歩道にへたり込んで頭を抱えたくなる気分だ。向こうから男が歩いて来る。背の高い、人生で成功した男。俺のバーの客だ。軽く会釈する。向こうは気が付かない。俺が変わってしまったからだ。この数カ月の間に、すっかり老け込んだ。  俺の名は川辺正義という。俺のバーを兼ねた小さなビストロ。潰してしまった。あとにはなにも残らなかった。さっき、自己破産弁護士と

小説『雄しべ達の絡まり』

あらすじ/美術大学の講師、徹は実は売れっ子の扇情小説家。あるカフェでウェイター、北原を見初め、そこに通い詰める。ネコが死んだといって号泣する北原。徹は彼に近付くチャンスをつかむ。 『雄しべ達の絡まり』 1 しばらく気になっている青年がいる。でもここに通っているのは、彼が目的ではない。このカフェはランチタイムを除けば静かだし、仕事をするには丁度いい。と、カッコよく言ってみたけど、やっぱりそれは嘘で、俺はその青年が目当てだ。初めてここに来た時から目を付けていた。もうひと月通っ

小説『品川から大宮まで』

 秋で、本格的で、赤い葉が上からボサボサ落ちて来る。学校の昼休み。僕はベンチに寝て龍馬の膝に頭を乗せる。彼は僕の巻き毛を弄ぶ。僕は前の学校を退学になってここに来た。龍馬のことは好きでも嫌いでもない。前の学校も男子校で、厳しくて生徒同志の恋愛は絶対だめ。相手は水泳部の部長で、僕は濡れながらプールサイドにいて、彼がプールの中にいて、カッコいいキスをしてて、それを顧問の先生に見られた。龍馬、僕、昨日大変なことになっちゃった。試験勉強で徹夜して、帰りに眠くて寝ちゃって、こっから大宮ま

小説『兄ちゃん、もう弁当忘れんなよ!』あらすじ

あらすじ 高校一年生の天使はいつも優等生の兄と比べられ不満である。彼はいつも兄が忘れた弁当を届けに三年生の教室に行かされる。見覚えのある色の白い女子に出会い、その首に見覚えのある傷を発見する。更に女子を車で迎えに来た見覚えのある男を発見する。夕べ観たアニメにそっくりだった。天使は徐々に自分がアニメの主人公だと気付いていく。天使は19世紀ロシア皇帝に飼われた猟犬ボルゾイだった。皇帝が追う伝説の白いフォックスに噛み付いたが、あの男が乗った車で逃げられてしまう。天使は女子に噛み付

小説『兄ちゃん、もう弁当忘れんなよ!』第1話

 1830年のロシア帝国。皇帝の名は、ニコライ一世。彼は避暑地、ツァールスコエ・セローに建てられた、壮大なエカテリーナ宮殿にいた。1756年に完成した、全長が三百メートル以上ある、ロココ調の建物である。  伝説の「白いフォックス」が、また目撃された。貴族達は勇んで馬に乗る。ニコライ一世の猟銃には、気の遠くなるほど手の込んだ、金色の彫金がある。馬の激しい嘶きが、ボルゾイ達の覇気を高めていく。ボルゾイはロシアの貴族達に猟犬として愛された大型犬である。小さな頭と流線型の姿態が特徴だ

小説『兄ちゃん、もう弁当忘れんなよ!』第2話

 お母さんは、暫く引き出しをがたがた開けようとしたけど、開かなくて、鍵を探し始める。あちこちの引き出しを開けてみる。開ける度に、くすぐったい笑い声がする。着物が、くすぐったい、と笑っている。お互いの肩を突き合って。 「お母さん、もっと静かに開けないと、みんなが嫌だって」 「止めてよ!」  それで、父親の愛人だったその女性の手を、父親が厳しく叩いて、確か、鞭で叩いたんだったぞ、サディストかな? それで主人公は、ほんとの愛って、狂おしく激しく傷つけ合うものだったんだ! 自分はなん

小説『兄ちゃん、もう弁当忘れんなよ!』第3話

その人は扇子を後ろに回して、なかなか返してくれない。天使はオタクだし、名前も変だし、勿論、よく虐められて兄に助けてもらってたけど、もう高校生だし、そういうことも収まってきたんだけど、天使の頭に、虐められていた頃のことが甦って、夢中でぎゃーぎゃー子供みたいに叫び出した。 「返してよ、返して!」  天使の胸には、その扇子が無くなったら、自分はどうして生きて行けばいいのか分からない、という理不尽な思いがあり、別に無くなったって命には別条は無い筈なのに、何年振りかでやっと手にしたその

小説『あそこから出てくる』

 親戚をたらい回しにされて育って、もうとっくに自分の家が分からない。知らない男に買ってもらったエルメスの靴を売った。渋谷の街を裸足でうろつく。  また知らない男。大きなカメラを持っている。ちょっと撮らせて、と言ってる。知らん顔して通り過ぎる。男は走って私を追い越すと、私の顔を撮る。私は黙って歩き続ける。男はまたシャッターを切る。私は腕で自分の顔を隠す。男は諦めない。  私は走り出す。足に鋭い痛みを感じる。立ち止って足の裏を見た。 「なにしてる! こんなに血が出て」 お前のせい

エッセイ『……鴎(かもめ)が、「女」という字みたいな形で飛んでいました。太宰治『人間失格』より』

こういう馬鹿馬鹿しいことをしているとほんとに楽しい。小説『アーンギェル Aнгел』のカッコいい可愛いプロモーション・ビデオを創りました。 ロシアのクールなハッカー達を描いた小説。ミステリー・コメディー。 15秒。YouTubeショート。音楽はK-pop、ATEEZの超ど派手な新曲。 動画プラスアニメーションで、思いっ切り派手なので、楽しいからぜひ観てください。ついでにスキもしよう! 音楽にプロモーション・ビデオがあるのなら、小説にもあっていいと思うんですよ。映画にも