神保町にネオ書房がやってくる ネオ書房@ワンダー店 切通理作店長インタビュー
神保町にネオ書房がやってくる。
2019年8月、貸本屋だった阿佐ヶ谷ネオ書房を引き継いで、書店をはじめた切通理作さん。
2023年4月、神保町の古書店@ワンダーの2階にネオ書房@ワンダー店をリニューアルオープンし、同店舗内の「神保町カフェ二十世紀」でイベントを開催してゆく。
新たなお店の構想をうかがった。
1・阿佐ヶ谷と神保町
ーー切通さんが阿佐ヶ谷ネオ書房の”新”店長になってから3年の歳月が経ちました。
切通 ネオ書房をやっていると、いろいろな方が訪ねてこられるんです。ある日、ゲームとか同人誌を扱う「コミックとらのあな」という有名なお店の社長、吉田博高さんが訪ねてこられたんですよ。実は昔、阿佐ヶ谷ネオ書房で働いていたことがあったそうで、懐かしいから写真を撮らせてほしい、とおっしゃるんです。もしかしたら、ご自身の原点を見直しに来られたのかもしれません。
ーー阿佐ヶ谷ネオ書房は、1954年開店。歴史がありますよね。
切通 そんななか、去年の秋ぐらいかな、神保町の古書店「@ワンダー」のオーナー鈴木宏さんが訪ねて来られたんです。鈴木さんもネオ書房で働いていたことがあるそうなんですよ。僕がネオ書房を引き継いでから、主に週末にイベントを開催してきたんですが、おそらくそれをみてくださっていて「@ワンダー」2階にある「神保町ブックカフェ二十世紀」をプロデュースしてみませんか、と提案をいただいたんです。そこは古書を売るだけでなく、ピアノや大きなモニターも置いてあって、イベントができるスペースなんですよ。
ーーその申し出を受けて、どんなことを考えましたか?
切通 阿佐ヶ谷でイベントをやっていると、出来ることと出来ないことがあって、そこは考えても仕方がないので考えないようにしていた部分はやっぱりあるわけですよ。阿佐ヶ谷って、住民以外が集まりやすい街とは言えない。イベントにお客さんを呼んでも、店舗のスペース的に最大15人。地域性の感じられる、木造の古くて狭い古書店でイベントをやるということに面白さを感じてもらえればいいんですけれど、せっかく来てくれたゲストのことを考えると、多くの人に自分の話聞いてもらいたいだろうし。神保町で最大50人入るならば、今までよりは少し「申し訳ない」という気持ちが軽減できたところで依頼できるかな、みたいに思ったんです。それに古書店街もあるし、文化に関しての一等地じゃないですか。
ーーそれで、引き受けることにしたんですね。
切通 だって、頼んだってやらせてもらえるかどうかわからない話なわけだから。あと10年も経てば、僕も70歳近くなるわけでひとつの機会としてやってみたかったんです。神保町を内側から覗くことは絶対面白いはずだし、いま時間があればいろいろな古書店を見てまわっています。
2・棚の管理は棚主さんに任せます
ーー古書については、どんなことを考えていますか?
切通 3年間、自分で本を店に並べてきて、自分の脳内をみている気持ちになるんです。もちろん自分の好きな本だけを並べているわけではないのですが、持ち込まれたものであっても、全体のバランスとかの調整がどうしてもそう見えるようになる。それは限界でもあるなと。そこで、神保町では本棚を小さく区切って、シェア本棚のオーナーさんを募ることにしたんです。そうすると同じジャンルが一箇所に集まることもなく、ランダムにいろんな人の持ち寄った品物が並ぶ。こっちで空いた棚に何か入れることは出来ても、棚の中身には口を出せない。それは不自由かもしれないけれど、どういう効果を生み出すのか、楽しみなんです。
ーーいろんな人たちの脳内を一望できるようになるわけですね。
切通 神保町の古書店街を散歩して、ついでに自分が「店主」になっている棚がどうなってるのかなって見に行く、みたいなことができたら少なくとも自分はものすごく楽しいなって想像したんです。それで参加のハードルを低くして、入会金をいただいた上で、小さな棚は月/税込3300円、大きな棚は4400円で3ヶ月契約、と安めに設定したんです。さらに時々棚主さんだけが集まる会をやろうと思ってるんですよ。そうやって、棚主システムを耕していきたいんです。
ーーその結果として、神保町にたくさんある専門古書店と、どんなところが違う店になると思いますか。
切通 流行り廃りって、古本にさえあるんです。主にどういう本が今は流れて来るとか。価格相場も変動しますし。でも、個人が出しているシェア本棚は、そういうことに全く関係がない。何が出てくるかわからない面白さがあると思うんですよ。それと、僕はコロナになる前まで、いろいろなバザーとかによく行ってたんです。そうすると、信じられないような安い値段で品物が売っていたりする。シェア本棚では、相場と全く関係のない値付けをしている可能性があるわけですよ。
ーーネットの普及以後は、中古品も値段が一元化されてしまった感じがありますよね。
切通 みんなプロではないから、各々の動機に従って、値付けも自由です。相場を見る人もいるだろうけど、そんなの関係なく、自分の価値観に沿って値段をつけている人もいる。いろんな考えの棚が並ぶわけです。
ーー思わぬ価値づけをされた品物に出会えるかも知れないわけですね。
切通 さらに侮れないのは、翌日には全く違う品物に変わっているかもしれないわけです。棚の管理は全部、店主さんに任せているから一月に何度入れ替えに来てもらってもいいわけで。そこも楽しんでいただけたらいいなと思うんです。
ーー古書だけでなくZINEだとか個性的な単行本も置いていますよね。
切通 ZINEの力ってあるんですよ。一般の書店ではほとんど扱っていないので、本当にほしいと思っている人が足を運んでくれるんです。アクセスしやすいネットが一般化する一方、それでも今日いますぐ欲しいという衝動でとにかくうちのようなリアル書店に来る人も居る。アニメ研究家、氷川竜介さんの「宇宙戦艦ヤマト全話解説」は、阿佐ヶ谷店で150冊以上売れたんですよ。そういうZINEの力とイベントをリンクさせたいんです。
3・8ミリ映画に大拍手が起きた
ーーまた「ブックカフェ二十世紀」という名前どおり、カフェとして利用してもいいんですよね。
切通 はい、Wi-Fi完備のカフェを開いています。飲み物やお弁当を出します。イベントのないときは本を買って、そこで読んでもらったり、談笑してもらえれば。それに、今までのネオ書房で料理本のイベントをやっても料理が出せないから、話を聞かせるだけでした。だけど、キッチンでその人の料理を作って振る舞って話を聞いてもらうっていうこともできる。そういうこともやっていきたいです。
ーーすでにイベントをいくつか開催していますね?
切通 2023年3月13日に「小中和哉8mm映画上映会+トークショー」を映画ファンの人たちと開催しましました。監督自ら8mm映写機を回してくださって。そのなかで小中監督が高校生の頃撮った「いつでも夢を」っていう映画を上映したんです。吉永小百合と橋幸夫が歌っている音源に合わせて、高校生たちが口パクする作品なんですが、レコードの歌声と役者の口の動きを合わせるのは当時、本当に大変だったと。
ーー今ならデジタル編集でより簡単に調整できますね。
切通 それを上映したら、大拍手が起きたんです。実は、同時期にユーロスペースの8mm特集でもかかった映画なんですが、そこでは半信半疑、歴史的価値は認めます、みたいなリアクションだった。でもあの日の神保町では、8mm映画を作る大変さを説明しなくても、肌でわかっている人たちもいただろうし、映画の中の人になり切りたいという、自分たちの青春も蘇ったような熱度があった。それが40~50人ぐらいのスペースでイベントをやる醍醐味だと思います。
ーーほかにどんなイベントをされましたか?
切通 阿佐ヶ谷ではスペースを貸す、ということはほとんどしていなくて、イベントを自分たちで主宰していました。司会も僕自身。神保町ではスペース貸しもする方向で、早速3・11のボランティアの方々が集まるイベントが開かれました。コロナが蔓延した状況で3年ぐらい会えなかった人たちが今年の3月11日に集まった。自分で主催したわけではなく、カフェの準備で大わらわだったので、内容もちゃんと聴けてないんですけど、僕らがカフェ受付をしている入口付近を通って入ってくる人たちと主催者側の「また集まれた」というある種晴れやかな表情の交わし合いを見ただけで熱を感じ取ったというか、とても達成感があったんですよ。
ーー今後、どんなイベントをやりたいですか?
切通 阿佐ヶ谷では大家さんとの契約で、楽器の演奏はダメだったんですよ。でも神保町は演奏もOKなんです。本格的なコンサートはともかく、トーク交じりで歌もありというアットホームな音楽イベントもやれたら、楽しそうです。
4・棚の小宇宙を見ているだけでなんとなく楽しくなるような場所に
ーー新たにお店を開いた神保町について、どんなイメージを持っていますか?
切通 伝統がある街ですよね。たとえば『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(76年、山田洋次監督)で宇野重吉が日本画の大家の役で出てくるんですよ。書をサラサラっと書いて「これを神田の店に持っていきなさい」と言うので、持って行ったらすごい値段が付く。そういうお店がある場所っていう感覚を持っています。一般的な現代人の常識を超えた次元の価値で動いている街、ですかね。
ーーそのなかでどんなお店にしたいですか?
切通 ネオ書房@ワンダー店は、ジャンルについての知識がなくても、バラエティのある棚の小宇宙を見ているだけでなんとなく楽しくなるような場所でありつつ、さっきも言ったように古書マニアのお客さんにとっても、必ずしも適正価格ではない品物とも出会って、そこに驚くような場所にもなれればと。
ーーそれがどんな展開をもたらすか、楽しみですね。
切通 オーナーさんもあと10年頑張りたいっておっしゃってるんですよ。紙の本がいま置かれてる状況を考えると神保町だって、この状態が10年後どうなっていくかのか。ひょっとしたら、 消えかかっている文化なのかもしれない。
この間宇野常寛さんと話していたら、そういう磁場のある空間はある種うっとおしいという言い方をされていた。
たしかにもっと若い世代の中には、消えかかっている文化にしがみつくのではなく、新しい場所で新しい事を始めたいという人もいるかもしれない。
けれども、僕みたいな、いま60前後の、20世紀の東京オリンピックがあった年に生まれた人間にとっては、リアルな場所での橋渡しにこだわって、いまここでジタバタしてみるのもアリなのかな、と思ったり。とにかく、是非、お店を覗いてみてください!
ネオ書房@ワンダー店
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-5-4 @ワンダー2F
Mail:kirira@nifty.com
《営業時間》
火曜〜土曜日 11:00〜19:00
日曜 11:00~18:00
毎週月曜日定休(他、メンテナンスのため臨時休業有)
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