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十二月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
十二月のお題は「光」でした。

「光」というお題なのに、なんだかさみしい作品が多くなったのは今が冬だからでしょうか。真夏の「光」だったらもっと雰囲気が違っていたように思います。
あらためて読み返してみると、先月よりもかなりセンチメンタル。物語というより、ひとりごとのような。

(1/22追記)
no.2の作品が三席に選ばれました! ありがとうございます!

no.1
僕らは光の反射でものを見るから、今見ている景色は、光のはやさの少し前。
きみの笑顔に、僕は少しあとに気づいて。
こぼれる涙を、少しおくれて拭う。
今この瞬間、きみがこの世から消え去って、きみの形をした光が、一瞬のこっているだけだとしても。
僕がきみを追うのは、光のはやさの、少しあと。

オリオン座のベテルギウスが爆発するかも、と以前話題になりましたよね。爆発したとして、私たちがその光を目にするのはずっと後で、そして私たちは彼方から届く残光を見つめ続ける。星はもうなくなっているのに。そんなイメージで書きました。

no.2
孤独に押しつぶされそうな夜、私はふらふらとコンビニへ向かう。店内に入れば、白く無機質な蛍光灯が目を貫く。ほ、と息をつく。ここには営みがある。生がある。死にかけの蛾のような私を、無関心に吸い寄せる光がある。雑誌を眺め、好きでもないココアを買い、少し人のかたちを思い出し、夜をしのぐ。

半分実体験です。近しい人を亡くして不安でさみしくてたまらなかった夜、ふらふらと深夜営業のブックオフに入ったらぴかぴかと無遠慮にまぶしくて、あたりまえに働いている人や本を読んでいる人がいて、その営みの気配にやたらとほっとした記憶があります。

no.3
母がくれた真珠のネックレスを、母の葬儀でつける。私が嫁ぐ日に持たせてくれて、以来、娘のお宮参り、入学式と、喜びに涙する時、必ず真珠も側にいた。今、初めての悲しみの涙を受け止め、真珠は首元でしずかに光る。これからも見守っていてくれるよね?いつも変わらず空にある、優しい月のように。

これも半分実体験です。経済的にあまり豊かではないはずの母が、手持ちの貴金属を手放してお金を工面し、真珠のネックレスとイヤリングを私にプレゼントしてくれました。
見守ってくれる月、というイメージは、いつか葬儀で聞いた法話から。亡くなった人は、昼間の月のように見えなくてもずっと空にいて、あなたを見守っているんですよ、と。

no.4
私には見えない光が君には見えているのだろう。たとえば水たまり。窓辺の鉢。まひるの草はら。硝子のおはじき。ただいつまでも飽かずみつめる、あるいははしゃぎ、あるいはそっと耳打ちしてわかちあう、美しいものが。「まま、みて。きれーだねぇ」そうだねぇ、と私は応え、そのまばゆさに目を細める。

これも実体験……って今回そんなのばかりですね。
子どもの目に映る世界の神秘。センス・オブ・ワンダーというんでしょうか。大事にできる親でありたいです。私はもうなくしてしまったので。

no.5
灯籠流しの光の群が銀河をのぼってゆく。寒くはありませんか。悲しくはありませんか。あたたかな場所で、安心して、眠れていますか、君よ。神などいないと知っていても、どうか、と願わずにいられないのは、もうそれしかあげられないから。どうか伝えて。愛しているよ、愛しているよ、愛しているよ。

悲しいニュース、特に子どもが亡くなる話を聞くと心臓がぎゅうっと潰れそうになります。おそろしくて。
怖くて悲しくてどうしようもなくて書きました。なのでこれは誰のためのお話でもなく、ただの私への慰めです。
死んだ人はきっと、あたたかな場所で幸せに暮らしている。そういうファンタジーが生きている人間には必要なのだと思います。


以下は没にした作品ふたつ。

一日の最後の光が地平に沈む、その瞬間を待って写真を撮る。空は刻々と変化して一時とて同じ色はない。春のグラデーション、夏の雲、秋の絢爛、冬の寂寞。変わりゆくから美しい、夕暮れ、一番星、薄い月、鳥の影、空を這う枝、渡る風。縫いとめる、すりぬける、光、夜、きのう。ため息。いかないで。

投稿しようとしたら、直前に投稿されてた方と一部表現方法が似通ってしまったんですよね。よくある言い回しだから別にかぶってもいいかと思ったんですけど、五作しか投稿できないんだからもう少し考えようと思ってお蔵入りにしました。言葉の羅列のスピード感と景色のうつろいのはやさがリンクするように書けたかな。

光る木の根元に幸いが眠ると聞いた男は旅に出た。故郷の丘を離れ、風雪に耐え、けれど木は見つからない。疲れ果て老いた男は失意のまま故郷へ帰り、幼い頃に遊んだ丘で力尽きる。かすんだ目に映ったのは、日の光を浴びて眩く輝くポプラの木。幸いよ、と男はあたたかな根に身をあずけ、目をとじる。

140字の中にうまく起承転結を盛りこめたぞ!と思ったけど、あれ、これってユリ・シュルヴィッツの『たからもの』じゃん……と。あとシェル・シルヴァスタインの『おおきな木』のイメージも入ってますね。出来としては気に入ってるんですけど、お蔵入り。


以上、十二月のふりかえりでした。
書いていたときの心情やイメージの源をさぐるのは楽しいですね。

皆さまの素晴らしき十二月の星々作品はこちらから!

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