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すこしさみしい、SF|140字小説

宇宙とか星とか。好きなもの詰め合わせファンタジー。
X(旧Twitter)で投稿したものを一部改稿。


1.緩慢な終末
宇宙から落下した小惑星は激しく衝突するのではなく、意外にも静かに着地した。一番背の高いビルに触れ、それから少しずつめり込んで、今は先端が僅かに地に埋まっている。このまま落下が続くと日本は沈むらしいのに、慣れてしまった僕らは時々空を見上げるだけだ。緩慢な終末はエンタメにもならない。

2.欺瞞ぎまんの鳩
新たに打ち上げる探査船の名は白鳩しらはとと言った。その前は希望で、もうひとつ前は未来。ノアが放った鳩のように、せめて一葉ひとは、人が住める星の痕跡が見つかりますようにと名付けられた。本当はもう誰もが無駄な足掻きと知っているのに。欺瞞の鳩が帰るべき大地は、かげった太陽に見捨てられ間もなく息絶える。

3.お返事ください
人類が超能力に目覚めた世の中で、私の力は軽い物を高く飛ばすだけ。超頭脳や未来予知なんて有能な人達は次々宇宙へ進出していった。向こうには豊かな資源と美しい未来があるそうで、ずっと誰も帰ってこない。未来に着いたらお返事くださいと、私は夜空に手紙を飛ばす。めっきり静かになった地球から。

4.宇宙の稲妻
宇宙に閃く稲妻を恐ろしいと思う奴は船乗りに向いてないんだそうだ。「雨の日って頭痛くなるよね」「気のせいでしょ。地上から何Km離れてると思ってんですか」先輩は船窓から地球の雷雲を見下ろし痛み止めを飲む。苦い顔だがそこに恐れはない。本能的な畏怖を退治できない、なりそこないの俺とは違う。

5.火星の桜
火星で初めて根付いた桜が今年ようやく蕾をつけた。本来咲くはずのない地に植えられた桜は、幹が捻くれ、地球での儚い風情はない。苦痛に耐え全生命力をかけて大地を穿うがった桜は人類の希望の象徴だそうだ。身勝手なものだと思う。それでも与えられた条件で生き抜くしかない。桜も、星も、私たち移民も。

6.冬眠のお時間
定刻通りに降り始めた人工雪は静かに地表を覆った。私は放送塔の窓から町並を見下ろして、町内放送のボタンを押す。《まもなく冬眠のお時間です。》降雪を合図に私達は眠りに就く。人が地を消費し尽くさないように、ノッカー・アップの彼が起こすまで。町が眠る中、一人起きて過ごす彼へ手紙を残して。

7.Naruko
故郷の雪に似てる、と彼女が呟いた。窓の外では二酸化炭素の雪片がびゅうびゅうと地表に叩きつけられている。この基地の名は彼女の郷里からとったのだったか。寒い地だと、いつか言っていた。「鳴子の雪も貴方に見せたい」火星生まれの僕は彼女の背を抱きしめる。地球でも、こうして温めあったのかな。

8.朝ぼらけのブランケット
赤茶けた地面へ並んで座って、私達は身を寄せあう。寒くない? 平気。もうすぐ朝ぼらけだ。え? 夜明け、て意味。ああ、地球語。彼の故郷の言葉の響きは柔らかい。体はごつごつと硬いのに。私達は彼曰くブランケットみたいな外皮だそうだ。変体が完了すれば彼も同じになる。火星の青い夜明けが終わる頃。

9.柚子の色の星で君と
最期のデートだとわかっていても浮かれるものだ。妻と手を繋ぎ夜空を見上げる。第一移植民として、銀河に柚子の実のようにぷかりと浮かんでいた惑星へ妻と降りて数十年。限りある資源を有効活用するため、老いた者は順に安楽死を享受する。死なば諸共と道連れを志願した妻と、明日には子らの糧になる。

10.柚子の色の星で私は
銀河にぷかりと浮かんだ黄色い星を見て「柚子湯……」と同時に呟いたのが両親の馴れ初めらしい。 「運命を感じたね」 「死なば諸共と思って必死に開拓したら意外と住みやすくて」 罪人を未開の星へ隔離する《星流しの刑》もこの二人にはただのデートなんだろう。罪人二世の私は地球の役人に同情する。

11.星の子
夜の山のいただきから星の子の群れが立ち昇る。数多の光の粒を孕んで真っ直ぐに銀河を目指してゆく。空から落ちて大地になったから、大地の旋毛つむじから空に還っていくのだ。さよならもなく一目散に、いつかまた引力に惹かれて巡り着くまで星の子は流れる。どこから来たのか知らぬまま、命をふり撒いて、燃えて。

12.赤い海
赤いゼラチン質の海を日にいっぺんオールでかき混ぜる。それが僕らの仕事だ。ヒトはとても寂しがりで、抱きしめる以上には一つになれない体に失望してゼリーになった。僕ら機械を残して。マザーから聞いた話が本当かは興味ないけど、赤い海はそれでも時々寂しがって、もっと混ぜておくれと鳴くんだよ。

13.終わらない黄昏
かつて避暑地として愛されたその場所に昔年の面影はなかった。戦場とされた湿原には巨大なクレーターがいくつも穿たれている。最終戦争の爪痕は深く、生命の誕生を見守ってきた湿原が元の生態系を取り戻すには長い時が必要だ。 ただ、熟れた柿のような夕陽だけが、変わらない明媚な黄昏を連れてくる。

14.きこえますか

  ザ
    ざ
       ザ
──すか
  ────き……ますか
   ────きこえますか
雨音のようなノイズの向こうから声がする。
「僕が最後の──人類──希望は──」
最後の少年が残した録画メッセージを開いたのは、三千年後の機械少女。 生きた人間など今は昔の物語。

15.お祭り気分のオレンジ
期待を秘めた囁きが宙に満ちる。お祭り気分の昂揚感を共有して、私達は揺蕩たゆたいうねる。老いたベテルギウスが自らの重力で潰れ、暗いオレンジが目の覚めるような光を放って爆ぜる。地球が今も生きてたら、オリオン座が欠けたって騒いでたのかしら。ふふ、とざわめく私達の意識体は星雲に乗り次へ旅立つ。

16.おやすみ
軍事衛星《おやすみ》が宇宙に打ち上げられた頃、地球はまだ青かった。《おやすみ》はミサイルで敵衛星を幾つも落としていった。その頃、地球は次第に白くなっていた。やがて《おやすみ》が任務を終える頃、地球は白く沈黙していた。《おやすみ》も沈黙し、自ら大気圏に落ちていった。みんなおやすみ。


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