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視覚障がい者が願う、雨音のしない安全な傘(元教授、ものづくりの精神に触れる):定年退職21日目

先日、大阪産業創造館で開催された「紙加工技術展2024」に参加してきました。とても熱気にあふれた技術展で、内容に関しては後日数回に分けて配信します。今回は、その会場で見つけた「大阪製ブランド」(写真左、注1)の話題に触れます(本日の内容は、プロモーションを含んだものではありません)。


まず最初に大阪府(知事)が、ものづくり中小企業の優れた製品を「大阪府ブランド製品(MADE IN OSAKA BRAND)」として認定していることに驚きました。この情報はあまり知られていないようですが(失礼! 少なくとも、府民の私も含めて知らなかった)、府のブランドイメージアップも兼ねて発信され、製品開発も後押ししていることがわかりました。

そして、ベストプロダクトの一つに選ばれた製品が、今日話題にする「サイレントアンブレラ」という傘です(写真右上)。

私は当初、超軽量とか水をよくはじく機能を前面に出した製品かと思ったのですが、それだけではなぜベストプロダクトに選ばれたのかわかりませんでした。そこで説明文をきちんと読んだところ、この傘は社会課題の解決を目指した製品である、ということで合点がいきました。


鬱陶しい雨の日に使う傘は、どちらかというと陰のイメージがあります。それで私などは子供の頃、童謡「あめふり」を歌いながら、傘が雨をはじく音を楽しんでいました。


しかし、視覚障がい者にとってはその事情が全く異なります。傘にかかる雨音が後方から来る車や信号器などの周囲の状況を知る音を遮ってしまうのです。そこで彼らから「雨音のしない傘を作ってもらえないか」という要望がきたそうです。当会社はその事実に衝撃を受け、すぐに開発に取り組んだとのことでした。


その後の展開も興味深く、「衣服だと雨音がしない」と気付いたことをスタートにし、それをきっかけに開発を進めたそうです。試行錯誤を重ねて、最終的には傘を2層構造にし、1層目は雨粒の衝撃を和らげるとともに雨粒を細かく、2層目は一般の傘と同様の生地で水をはじく構造にした、とのことでした(注1、2。写真右下)。


その結果出来上がった製品が「雨音低減効果を有する雨傘」(注2)で、すぐに盲学校などから喜びの声が届いたそうです。また同社からは「視覚障がいのある方だけでなく、すべての人の雨の日の外出をより安全にする雨傘なので、ぜひ一度試してほしい」とのことでした。


科学を研究している者としては、われわれの最終目標は困っている人達の役にたつものを作り出すことです。この製品は、まさにその目標を体現した意欲的な取り組みだと思いました。おかげさまで、今日は豊かな気持ちで1日を過ごせそうです。


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注1:大阪製ブランド認定事業事務局作成の資料 “大阪製ブランド(2024)”より

注2:丸安洋傘株式会社HPより(ちなみにHPには、神奈川工科大学の上田先生が産総研で行った、降雨低減効果実験の結果も載せられています。騒音レベルが、どの周波数領域でもかなり減少している様子がわかります。)


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