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自分の心と体をととのえる、お酒の革命【人と計画の車輪 #1】後編

クラフトジンのブランド「HOLON」ができるまでのお話。301オリジナルのフレームワーク『人と計画の車輪』になぞらえ、前後編でお伝えしています。

●前編はこちらから

前回は発起人の飲み会文化への違和感から、「新しい飲酒体験を作りたい」という気づきに至るまでのストーリーでした。今回は”お酒の革命”を起こすために、どのように商品に落とし込んでいったのか、その道のりについて。

後編も、HOLONプロデューサー 堀江麗さん301代表 大谷省悟の対談形式でお送りしていきます。

HOLONとは?
「クラフトジンでととのう時間を」。 東洋古来のハーブとスパイスが心と身体の調和を生み出す、メディテーションのような飲食体験を創出するクラフトジンのブランド。(https://holongin.com/)

1.体験_その体験にどんな意味があるのか
「自分のためのお酒時間とは?」

ーー大谷
1の「体験」のセクションも時間のかかる部分ですが、かなり大事な部分です。プロダクトやサービス自体に対する意識が先行するケースは、すごく多いです。その想いが強いため、プロダクト前提とした経験を、願望として描いてしまいがちだと思っています。

よくあるのは、いわゆるペルソナを描いて、20代でこういう属性の人が〜、という設定をするじゃないですか。でもそんなの嘘だと思っていて、「そんな人いるの?作り手側の願望じゃないの?」とよく感じるんです。

どういう人が、どういう時に、どんな気持ちで、何のためにそれするのか、仮想の人物だと理想に寄りがちです。知り合いでいうと誰なのか、その行動をとる理由を想像できるか、本当にそんな瞬間があるのか、問いを繰り返します。チーム全体で、頭に同じビジョンをクリアに描けるところまで磨き込めるかが鍵です。

「ジン=食中酒」に縛られない、リアルな場面を探す

ーー麗さん
私はわりと願望に埋もれていました(笑)今までのジンは、食中酒としての売り方が定番。大手起業のマーケティングもそういった戦略が多いので、食事に合うものじゃないと飲んでもらえないと考えていたんです。
そこで大谷さんから問われたのが、

「HOLONはメディテーションに近い体験を作ろうとしている。でも、食事中ってふと一息ついたり、自分のための時間になっているのかな?」

ということ。それはこちらの願望であって、リアルな場面ではないという結論になりました。そこから、食後に飲んでもらうには、どんな仕掛けや商品にするといい、という視点から、だんだんとプロダクトの話にも入りましたね。


届けたい価値vs業界の当たり前

ーー大谷
ジンはトニックとセットという先入観を捨てることも、悩んだ点でしたね。

ーー麗さん
はじめは当たり前のように「ジンを売るなら、どんなトニックで割ろうかな」と考えていました。

私はトニックウォーターを自作する特殊な人間だったこともあり、「買うくらいはできるでしょ」と、大谷さんにもよく話していましたね。
でも、「トニックウォーターってどこに売ってるの?そんなに詳しい人、本当にいる?」という問いを受けた時に、自分もジンにハマる以前はトニックウォーターを買ったり、常備することはなかったと気がつきました。

ここでまた、お家などの安全な環境で、自分のための時間として楽しめるジンにしたいという点に立ち帰りました。本当に届けたい体験を考えると、トニックウォーターで割る行為はハードルを作ってしまう。

メディテーション効果を高めることも見据えて、香りを際立たせる方向性にシフトしていきました。この時期に、「ソーダ割りのために構築されたジン」という、プロダクトの輪郭が見えたのが印象深いです。

ーー大谷
HOLONというブランド自体、いわゆる"ジン好き"や"お酒好き"のためのブランドではなかった。0の地点で話した思想を共有できるツールだと考えた時に、お酒好きの人たちはターゲットにはならないんです。日本のお酒のシーンにおいては、かなり特殊ですけどね。

お酒を作るのに、対象がお酒好きにならないのは、戦略として疑ってしまうと思うんですけど。体験をじっくりと磨きこんでいけば、そのシーンは必ずあるし、実在するところまで掘り下げているので、あるはずだと。
分かりやすく"お酒好き"じゃなく、”ライフスタイル”よりのイメージで捉えていくと、トニックウォーターを手放す選択も腑に落ちますよね。

2.ナラティブ_人はそれをどう語る?
「心と体をととのえるジン」

ーー大谷
自分の考えるナラティブの定義は、ブランド自身が語るものが「ストーリーテリング」だとすると、それを受け取るユーザーが他者にどう語るのか。そのため、ここでは「人は人にそれを何と語るのか」という点を突き詰めていきます。

この時に陥りやすい穴があって、言いたいことがたくさんあるからこそ、説明が長くなってしまうこと。3センテンスくらいになりがちですが、本当に伝えたいことが薄れてしまうので、要素を削ぎ落としていきますね。

ここも【1.体験】の考え方と同じで、「自分だったら、友人だったら、あの人だったら、本当にそんな言い方をするのか?」という問いを、永遠に突き詰めます。

ーー麗さん
ここもすごく難しくて、時間がかかった部分です。ユーザーの体験から浮かび上がってくる言葉なのか、作り手側が特徴を伝える言葉なのかで、違いがあると思っていて。もちろん商品のPRポイントとして、キャッチーなことを言う手段もあります。
ただ、ブランドとユーザーとの文脈が自然と立ち上がるのって、生で体験した出来事から生まれる言語が起点になると考えていて。

ーー大谷さん
その流れから「ととのう」ってところにも行き着いたよね。

ーー麗さん
自分の中では「それ、ととのうジンだね」って言われた時は、少し意外でした。たしかにHOLONとサウナは、内観できる体験としては文脈が近いので、ぴったりな言葉かもしれない。ただ、サウナーに向けて作っているわけではないので、その言葉選びで正しいのか、少々迷いはありました。

最初はクラウドファンディングで、以下のコピーを使っていました。

クラフトジン で「ととのう」時間を。ミレニアル世代のチームより、新しいお酒を発売

正直、発信した後も"新しいって抽象的すぎたかな"、"ミレニアム世代が作ると美味しいの?"などと考えていました。

その不安を取り払ってくれたのは、実際にHOLONを手に取ったユーザーの方々の声でした。SNS上で自然と使ってくれていた言葉が「ととのう」だったんです。

そこでしっかりと納得感が生まれて、「ととのうジン」という言葉でコミュニケーションを取るようになりました。

3.プロダクト_商品として機能するか
「低度数、ソーダ推しのジン」

ーー大谷
プロダクトの話はわりとシンプルです。ここまでの話をしっかりと積み上げていれば、自然と立ち上がってくるものだと思っています。0〜2のワークを一緒に通ってくることで、僕らが新しい提案をする必要もなく、確信を持って設計ができるんです。体験やナラティブに沿っているのかどうか、迷った時に立ち帰れる基盤があるので、前にも進みやすい。

ここでのポイントは、一つの商品としての質も忘れないこと。売り出す市場や業界で信頼を得られるクオリティを担保する、それは別の文脈で大事だと考えています。

ーー麗さん
文脈やストーリーの納得感は高いけど、プロダクト側から見ると実現がとても難しかったです。分かりやすい落とし所としては、大きく二つでした。

一つは、ソーダ割りで成り立つものにすることです。一般的にはトニックで割ることを前提に作られることが多いですが、【1.体験】の時の議論で出てきたように、自宅で手軽に飲めることが大切でした。

生活に取り入れてもらうためには、トニックを買うハードルを無くしたい。そこで、ソーダ割りでおいしいことを前提にしました。香りを存分に楽しめる飲み方でもあるので、より届けたい体験に即した選択でした。

もう一つは、低アルコールのものにするということです。自分の内側に向き合えるような時間を感じるには、酔っ払うことが目的にならないからです。そのため、リリースからのレギュラー商品である『HOLON GIN ORIGINAL』は35度、SEASONALの期間限定シリーズも全て40度以下のアルコール度数で作られています。

ただ、一般的なジンのアルコール度数は42-45度が鉄板。度数が高い方が、一緒に蒸留するスパイスやハーブの香りを引き出しやすいからです。そのため、パートナー探しには苦労しました。

40度以下のジンを美味しく作るなんて不可能だと言われ、断られるケースも多かったです。作りたい体験をめげずに伝え続けることで、この企画を面白がってくださる蒸留所と出会うことができました。香りを損なわずにアルコール度数を下げる製法をご提案くださり、HOLONで作りたいクラフトジンが実現されたんです。

■「HOLON」で見つけた問い

飲酒体験のパラダイムシフトを起こすには?
▶︎"自分をととのえるジン"で、メディテーションとしての新しい飲酒体験をつくる

301ではこのようなワークを通して、共通の問い=ブランドの核を見つけていきます。次回のお話も、ぜひお楽しみに。

▼今回の対談動画は、こちらからご覧になれます。
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301 では、クリエイティブ組織の常識を超え、仕組みや関係性を設計したプロジェクトデザインを行なっています。ご興味を持っていただけた方はお気軽にご相談ください。


CREDIT
Speaker:Rei Horie(HOLON)/Shogo Otani(301)
Graphic Designer : Yurika Omoto(301)
Text:Natsumi Nakajima


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