マガジンのカバー画像

お客さまと調律師のギャップを埋めたい

36
ピアノって、調律って、本当はこうなんです。 ひとことで伝えるのは難しい「ギャップ」を解消する記事をまとめました。
運営しているクリエイター

記事一覧

新しいピアノには「リリース直後のバグ」がつきもの

「デバッグ」と言う作業、ご存知ですか? ※ちょうどこの投稿の数日後に詳しい動画が出ていました。わかりやすい! これ、新品のピアノの育て方に似てるなと思いました。 身近な「デバッグ」と言うと…やはりゲーム関連でしょうか。ほぼ完成したゲームを発売前に「デバッガー」と呼ばれる人たちがプレイしてみて、ゲームが正常に動くか、バグがないかを確かめます。 レースゲームで壁にぶつかった時すり抜けたりしないか。 格闘ゲームで特定の技を同時に出すとフリーズしないか。 RPGでアイテム

なにかを足すならポジティブな気持ちが理由じゃないと

「このピアノに◯◯を取り付けたいんですが、これってどうですかね? 」 そんな相談を受けることがあります。 いわゆる改造にあたるようなオプションの後付け品はピアノにはそんなに多くはないですが、代表的なものだと「ピアノの消音装置」 他には、取り付けるとアップライトピアノがグランドピアノのタッチに近づくものだったり、真ん中の弱音ペダルの効き具合をグレードアップする製品だったり。どれも大掛かりな改造で、数十万円かかる高額な商品です。 もちろんそれぞれメリットとデメリットがある

調律をたくさんすればピアノが安定する、と言うわけじゃない

ピアノは結構音が狂う楽器です。 ピアノ調律師の仕事はいわゆる「狂った音を合わせる」だけではありませんが、基本の作業であることは間違いないです。 でもその「音の狂い」にもいろいろあります。実はただ調律を繰り返せば良くなるわけではなく、適切なタイミングで調律することや、環境を整えたり、持ち主の方の協力が絶対に必要です。 今回はそのために絶対に共有しておきたいけど、意外と調律師の感覚に留まっていてひとことで説明するのが難しい「ピアノの音の狂いとは?」について言語化したいと思い

協力していくなら順序は大事だよねって

最近、調律先のお宅で「前回教えて頂いた加湿器を買いました!」と、部屋にピアノのための加湿器や除湿機を置いて頂いているケースが増えました。 加湿が大事です!除湿が大事です!といろいろな方法で伝えても、なかなか置いてもらえないんだよなあ…と言う悩みがずっとあって。 冷静に考えるとそれはそうなんですよね。今までの生活になかった機器を導入するのって結構ハードルが高いんだと思います。僕もどんなに便利と言われても、ウォーターサーバーを家に置くのは抵抗あります。 でも、お客さまのため

ピアノは工業製品であって、工芸品でもあって

工業製品と工芸品。 ユニクロのTシャツと手編みのニット。 コンビニのスイーツと専門店のケーキ。 ニトリの家具と大工さん手作りの家具。 身近なものではそんな違いがわかりやすいかもしれません。 ピアノにはどちらの側面もあって、そのことがピアノと言うものを理解するのに結構大事なんじゃないかと思っています。 と言うのもこのnoteでは「お客さんと調律師のギャップを埋めたい」と言うことを命題のひとつに掲げていますが、そのギャップってピアノを工業製品と捉えているか工芸品と捉えてい

アップライトはグランドピアノの劣化版で、電子ピアノは紛いものか

「ピアノを本気でやるのにアップライトなんてありえない。ましてや電子ピアノなんて…」 こんな主張がピアノ業界には昔から根強くあります。 ここに続くのが 「だから自分はグランドピアノを弾く」 は全然良いと思うんです。でもそれを他人に強要したりマウントをとったり、アップライトや電子ピアノのユーザーが負い目に感じてしまうのは非常に悲しく害のある風潮だなと。 グランドピアノだけが本物のピアノ?歴史的には確かにピアノは元々グランドピアノから始まりました。 その構造を大胆に変え

ピアノの「お見積もり」をやめました

眠っているピアノをまた使いたいというご相談は多いです。 古いピアノも多く、買った当初に数回だけ調律をして10年以上弾いていなかったようなケースもざらです。 使っている方からすると「はたしてこのピアノは直して使えるのか?」「そしてどのくらい費用がかかるのか?」が一番の心配ごとですよね。 実際にたまに、まずはお見積りを...と言うご相談もあるのですが、少し前に「お見積りだけ」のサービスをやめました。 古いピアノは大きくわけて4パターンもちろん古くても使えるピアノはたくさん

ピアノの購入を相談されたときに伝えたい「買ってはいけないピアノ」

400種類以上。 世の中にはたくさんのピアノのモデルがあって、今まで僕自身が調律したことがある数だけでもこれだけありました(ちなみにブランド数は106でした)これ以外に触った事のないピアノがどれだけあるのか想像もつきません。 その数だけピアノにはそれぞれ特徴があって、良いか悪いかは基本的には「弾く人の好み」です。 なので、全てのピアノが素晴らしい!と締めて終わらせたいところなんですが... 中には設計や造りに致命的な問題があり、好みの範疇を超えておすすめできない、はっ

有料
450

人が家に来るときは、約束の何分前が良い?

ピアノの調律は事前に「何月何日の、何時に伺います」とお約束をして訪問する仕事です。 時間の約束についての感覚は本当に人それぞれですよね。仕事でもプライベートでも、なにを“常識”とするかが全くちがって未だに難しい。 「10時に」とお約束したら00分に着くのが良いのか、5分前が良いのか。時間通りには来ないものだと思っている方もいて、ちゃんとした時間に着くと驚かれることもあります。エリザベス女王のお茶会には5分くらい遅れていくのがマナーと言うのは本当なんでしょうか。 自分の中

ピアノは昔より安全になった。だからこその心配ごとも。

ピアノの鍵盤蓋には2つのタイプがあります。 最近のピアノは蓋から手を離してもバタン!と閉まらずに、ゆっくりと蓋が降りていく「ソフトランディング機構」が標準になっています。ヤマハでは1997年頃のモデルからこのタイプ。これは主にお子さんが指を挟んでしまう事故を防ぐためです。 古いピアノに後付けできる商品もあります。(一部取り付けできないピアノもあります。リンク先の星1の方のピアノはまさに取り付けられないピアノ...) ソフトランディングの鍵盤蓋は押さえつけて無理やり閉める

音が出なけりゃピアノじゃない

ピアノで一番メジャーかつシンプルに最も困る故障。それは、音が出ない。 弾く方からすると、ひとつでも音が出なければピアノとして使えないわけで、一大事です。 鍵盤が下がらない 鍵盤が戻ってこない 鍵盤は動くけど音が出ない 基本的に弾き手側で感じるは症状としてはこの3つのどれか。 でも実は、音が出ない原因となる故障はもっと多岐にわたっています。 パッと思いついただけでも。。。(ここは読み飛ばしてOK) 鍵盤が口棒に引っかかっている 鍵盤のスティック(フロント側)

調律師へのお茶出しについて。それともっと大事なこと。

ピアノ調律師を呼ぶときに、結構みなさん気にされているのが「調律師へのお茶出しをどうすれば良いのか」 これを知ったときにびっくりしたと同時に、ありがたいなと思いました。 そもそもこちらは仕事でお邪魔していると言うのに...みなさん当たり前な感じで迎えて頂いてるように見えますが、当然いろいろと考えてくれているんだよなあと。 たしかに調律を頼むのが初めてだったり新しい調律師を呼ぶときなど、他のお宅はどうなんだろう?なにもしないのはどうなのかな?逆に作業の邪魔にならない?とか、

ピアノを「商品」として見るときのポイント

ピアノの販売員や、ピアノ調律師など、ピアノを「製品・商品として扱う」職業。 仕事で扱う以上、「このピアノはこんな製品」と評価する必要があります。 今回はピアノと言うプロダクトをプロはどんな項目で見ているのか?その構成する要素について言語化してみたいと思います。 ピアノは電化製品のように機能や性能のちがいで判断するのは難しい商品です。これらのポイントを共有できるとピアノを選んで頂くのがスムーズになるのでは?と思っています。 プロダクトとしてのピアノを構成する要素は主に5

弾き手が見ている鍵盤と、調律師にとっての鍵盤

「ぴあ(ピアノのことだと思われる)無くなっちゃったね〜?」 お客さま宅でいつも通り調律前に鍵盤を外してピアノの上に載せ、掃除をしていると3歳くらいのお子さんの声。 かわいいな〜すぐ戻すよふふっ、と思いながら作業を続け、鍵盤を戻します。 ここからまだ音は出さずに先にネジを締めたりタッチの調整をしていきます。少しするとまた声が。 「ぴあ、やらないね〜?」 (この人ピアノを良くしてくれるって言ってたけどなかなか始めないな、の意) バリバリやってるんですが。。。笑 でも思