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地域おこし協力隊の光と影

岩手県における地域おこし協力隊員は266人

5月3日(金)の岩手日報の1面は、岩手県内の地域おこし協力隊の現況について報じていました。

市部から地方に一定期間移住し、活性化に取り組む「地域おこし協力隊」が岩手県内で増えている。総務省によると、2023年度の隊員数は266人(前年度比15.7%増)で、制度が始まった09年度以降で最多。新型コロナウイルス禍で地方への関心が高まったことが背景にある。自身のスキルや「よそ者」の視点を生かして幅広い分野で活躍するほか、任期後は64.3%が定住を選択。人口減が進む地域に活力を与える存在として期待が高まっている。

(岩手日報WEB記事  https://www.iwate-np.co.jp/article/2024/5/3/162504 より引用)

記事によると、岩手県内では266名の地域おこし協力隊がいるようで、これは制度が始まって以来最多の人数とのことです。

ちなみに記事には掲載されていませんでしたが、花巻市では現在12名の地域おこし協力隊がいて、地域課題の解決のためにさまざまな活動をしています。


この制度を花巻市が初めて導入したのは、平成27年。
この時、市職員だった私は、地域おこし協力隊の制度を含め移住定住施策を管理・調整する立場にあり、導入当初は手探りで事業を進めていった記憶があります。

私は、導入初年度に採用された地域おこし協力隊の方をはじめ、花巻市に採用された多くの地域おこし協力隊員の方とお会いしました。
そして彼ら(彼女ら)の抱える悩みや様々な問題についてお話を伺ってきました。

そこで、今回は、花巻市における地域おこし協力隊の導入当初から現在までの現状を分析しながら、「地域おこし協力隊」の課題とその解決策について私見を述べさせていただきたいと思います。

地域おこし協力隊の活躍

地域おこし協力隊は、地域問題に関心を持っている首都圏や大都市の方が、一定の期間希望する地域で移住しながら、地域課題を地域の方とともに解決する担い手として地方自治体が短期任用職員として採用する制度で、地域おこし協力隊にかかる費用については、その大部分を国が支援する形で制度化されています。

地域おこし協力隊の皆さんは、そもそも地域に関心を持っている方なので、やる気があって、自分の持っている知見をフルに活用して地域課題を解決しよう!というバイタリティを持っている方は多いです。

花巻市に採用された歴代の地域おこし協力隊員の中にも、バイタリティに溢れ、地域の方にはない発想でさまざまな活動をして脚光を浴びた(浴びている)方々がいます。

例えば、ぶどう農家をやりながら、ぶどう栽培に関心を持ってもらうべく首都圏の方との関係人口を構築する活動のほか、現在では地元の高校生とコラボし高校生とともに地域活性化を図っている方。

例えば、陶芸家に師事し自分で陶芸作品を発表しながら、地域の伝統工芸のPRに取り組んだ方。

例えば、地域で独自のイベントを開催し、首都圏の多くの方に地域をPRするなどの活動をつづけながら、現在も地域を舞台としたスポーツイベントなどを大々的に開催している方。

上記の方々は、これまで地元住民では発想が及ばない様々なことに取り組みながら地域に貢献していただいた(貢献していただいている)方々であり、その活躍は、地域おこし協力隊の優良事例として岩手県内のみならず全国にも発信されています。

地域おこし協力隊の課題

一方、地域おこし協力隊の中には、志半ばで任期途中に退任された方もいらっしゃいます。

これには様々な理由がありますが、花巻市が抱える「地域おこし協力隊」制度の課題が退任理由とリンクしていると思われます。

私が考える「地域おこし協力隊」の課題をまとめると次のようになります。

1.「地域おこし協力隊」制度の全庁的な理解
2.地域のニーズと地域おこし協力隊員の活動内容のミスマッチ
3.地域との関係性の構築
4.地域おこし協力隊員のサポート体制


「地域おこし協力隊」制度の全庁的な理解

地域おこし協力隊の採用に当たっては、事前に「○○地域(もしくは花巻市全域)で△△という地域課題があるので、その地域課題を地域の人と一緒に解決してほしい」という形で募集します。

地域おこし協力隊の募集にあたっては、採用担当課が事業担当課に照会をかけ、地域おこし協力隊導入の希望を聞いて地域課題を設定する訳ですが、花巻市においては全庁的に「地域おこし協力隊」制度の理解が進んでいるとはいい難い状況にあります。

「地域おこし協力隊」を活用することによって、単に地域課題を解決するばかりではなく、旧態依然とした体制に新たな風穴を開けるとか、地域の若い方とコラボすることによって地域づくりの担い手をつくるとか、いろいろな相乗効果が期待できると思うのですが、事業担当課が「地域おこし協力隊を活用しよう!」という雰囲気になっていない現状の中で、ある部署では「単なる第1次産業(ぶどう産業)の働き手」として募集を希望したこともありました。

地域おこし協力隊は「地域をどうにかしたい」とか「こうすれば地域が良くなるのでは?」と考え応募してくるわけですから、「単なる第1次産業の担い手がほしい」といっても、募集内容と応募内容のミスマッチが生じてくるわけです。

この時は実際に、単なるぶどう農家としてではなく、6次産業としてぶどうを使った商品開発や飲食店の運営などを将来の目標として応募してきた方がいましたが、応募者が採用寸前で辞退したという事がありました。

このまま採用しても、次に述べる「地域のニーズと地域おこし協力隊員の活動内容のミスマッチ」になってくるので、結果的によかったのかもしれませんが、いずれ「地域おこし協力隊」について全庁的に理解促進を図る取り組みを進めていく必要がある思います。

地域のニーズと地域おこし協力隊員の活動内容のミスマッチ

先に挙げた事例のほかにも、採用段階で事業担当課のビジョンが不明確なまま地域おこし協力隊員を採用した結果、地域のニーズと地域おこし協力隊員のやりたいことのミスマッチが生じて、結果、任期途中で地域おこし協力隊員が退任した事例がありました。

例えば、「○○商店街の活性化」という地域課題を設定したとしても、その地域課題は不明確です。

商店街の空き店舗解消なのか、商店街の賑わいづくりなのか、各商店の後継者育成なのか、それぞれの商店街では課題の深堀りが必要と思います。

もしも深堀りしていないのであれば、地域おこし協力隊と一緒に深掘りしてから始めるのもいいと思いますが、そこが明確でないまま「○○商店街の活性化」を地域おこし協力隊員にお任せしても、成果は出にくいと言わざるを得ません。

地域との関係性の構築

また、地域によっては「地域おこし協力隊が地域課題をすべてを解決してくれる」という誤解がある場合もあります。

地域おこし協力隊は、すべての地域課題を解決してくれるスーパースターであるはずがなく、地域おこしの本質は地域住民が主役であり、地域おこし協力隊はあくまで地域の活動をサポートだったり、コーディネートだったりしてくれる存在であるべきです。

そういった理解をしていないと、地域住民が「地域おこし協力隊」に過度な期待を抱くことになります。

逆に、地域の方が「地域おこし協力隊」のことを理解していないと、「よそ者が来て地域をかっちゃます(かき回す)んじゃないか?」とか「地域の事情を知らない人が来たってなんにも変わらないでしょ」という否定的な考えになる。

すべての住民が地域おこし協力隊を歓迎している訳ではないので、地域との関係性の構築は何よりも重要と思われます。

地域おこし協力隊員のサポート体制

「地域おこし協力隊」における全庁的な理解促進との話とも絡んでくるのですが、地域おこし協力隊を受け入れる側の事業担当課のサポート体制も重要です。

市町村職員の早期離職が進んでいる中にあって、これまで以上に市町村職員は多忙化を極めています。

その中で「地域おこし協力隊」を受け入れるということは、事業担当課及び地域おこし協力隊担当職員にとっては、通常の業務もこなしながら地域おこし協力隊のサポートを行わなければならないことになり、職員の負担は増大することでしょう。

だからといって、「地域おこし協力隊」の業務を本人にだけで完結させてしまったり、地域にまかせてしまったりすることは絶対に避けるべきです。

多くの地域おこし協力隊の方のお話しをお伺いすると、不満の多くは「事業担当課や採用担当課のサポート体制の不備」でした。

私は、地域おこし協力隊の方々から「受け入れ担当職員が忙しくて相談に乗ってもらえなかった」とか「事業担当課の職員の方から、地域おこし協力隊の業務とはかけ離れた管理業務を行うよう命じられた」とかそういった多くの不満の声を聴いてきました。

受入れ担当職員の方が多忙であればその上司が相談に乗る、またOBも含めて地域おこし協力隊のネットワークを構築し、地域おこし協力隊どうしで相談し合える体制を整備するなど、「地域おこし協力隊」のサポート体制の充実は必須だと感じます。


地域おこし協力隊のこれから

先にお話しした地域おこし協力隊の活躍の事例は、花巻市で採用した数十人の地域おこし協力隊のほんの一部の事例に過ぎず、多くの地域おこし協力隊員は、日常様々な悩みを抱えながら自らを奮い立たせて活動をしています。

先述した三名の事例の方々はいわばアベンジャーズのような方々で、それを光とするならば、その裏には影の存在としての多くの地域おこし協力隊がいます。

地域おこし協力隊は、20代、30台の若い方も多いです。
まだまだ社会経験を積まなければならない方もいらっしゃると思います。

そういった若い方々に対して、時には社会のルールを教えながら温かい目でサポートを行っていく・・・そういったサポート体制を整備しながら、地域との関係性の構築を図り、行政、地域、地域おこし協力隊が連携して地域課題の解決に挑んでいく。

それこそが理想とする地域おこし協力隊の姿だと思います。

そのためには、地域課題の発掘を事業担当課に投げることなく、地域おこし協力隊の採用担当課が本気になって地域課題を見つけていくことが重要であり、今後は「子ども・子育て」や「スポーツ」、「生涯学習」分野などこれまで採用のなかった分野にもウイングを広げながら、自治体としての地域おこし協力隊の活動を全庁的に共有していくことが必要です。

いずれ、市民に対しても地域おこし協力隊の活動の成果を周知していくことも重要だと思いますし、せっかく花巻市に来ていただいているのですから、地域おこし協力隊としての活動終了後も花巻で継続して活動する方がますます増えるよう、「地域おこし協力隊」の制度をブラッシュアップしていかなければならないと思います。

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