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冬霞の巴里 感想とか色々

待ちに待った永久輝さんの東上!
しかも「復讐」がテーマの愛憎劇!
私は今は仕事で海外にいるのでVPNを駆使して配信で観劇。楽しかったけど生の観劇が恋しくなる。
海外で配信を見る方法は別の記事でまとめる予定。


まずは、キャストの大まかな印象。
主演:永久輝せあさん(オクターヴ)
永久輝さんを見るのは昨年5月の本公演ぶり。歌・お芝居・ダンス、どれもかなり上達してる印象。実は、昨年5月の本公演を配信で見た時、歌は本調子じゃない気がして心配だったけど戻った感じ。ダンスに関しては、フィナーレのタンゴがキレがあって良かった。お芝居は、目で役の心情を表現してるのが印象に残る。2回ある会食の場面とか。個人的名場面は、1幕終わりのブノワを殺したあとの「まずは1人…」と「父さん、見ていてくれましたか?」やっぱり永久輝さんはこういう重厚な作品が似合う。コメディも悪くないけど永久輝さんのパフォーマンスの印象とか持ってる雰囲気が合うのは暗めの作品。
ヒロイン:星空美咲さん(アンブル)
アンブルは永久輝さん演じるオクターヴの姉。星空さんは永久輝さんとは8学年差だけどその差がかえって良かったかも。あんまり学年が近いとアンブルの行動や心情が生々しくなる(後述)。私は彼女の舞台姿をしっかり見るのは今作が初めて。そつなくこなしてて、観客が見てわかりやすい弱点みたいなものは無い印象。歌ダンスお芝居の中で星空さんが一番得意なのはおそらくお芝居。主人公との関係は「姉弟」で、宝塚によくある恋人や夫婦ではないある意味難しい関係だったけどよくやってたと思う。永久輝さんがトップスターになって、トップ娘役として組むのか気になる。私は永久輝さんと星空さんのコンビは見てみたい。
2番手ポジション:聖乃あすかさん(ヴァランタン)
聖乃さんの印象ははいからさん~の蘭丸だけどヴァランタンみたいなワイルド系がハマってた。劇場の裏道でオクターヴ(永久輝さん)と歌う場面が望海さん主演の名作ドンジュアンみたいで印象に残った。
以下印象に残った方々
愛蘭みこさん(エルミーヌ)
作品の中で数少ない「陽」の人、エルミーヌ役。明るくて純粋なエルミーヌの性格は作品や主人公たちにプラスに働いたりマイナスに働いたりする。愛蘭さんのお芝居が上手いのでオクターヴとアンブルの主人公たちの側に立つ観客としてはその純粋さや優しさが結構イラッとくる。短いけどソロの歌があって上手かった。


ストーリー上で気になったところとか登場人物の/心情

まず、このヴァレリー家は色々と複雑。この一家ほんと大丈夫?ネタバレになるけど、アンブルとイネスはクロエと前夫(既に死亡)の子供で、オクターヴはオーギュストと使用人の子供。そういうわけで、オクターヴとアンブルは姉弟でありながら血は繋がっていない。さらに、ミッシェルはクロエとギヨームの息子で、オクターヴから見ると義理の弟。家系図にしないと何が何だかわからない。事の発端は、オーギュストに無理やり結婚させられそうになったイネスの自殺。敵を作りやすいタイプだったのか、以前からオーギュストを憎んでいたクロエとギヨームはイネスの自死をきっかけにオーギュストを殺害。オクターヴとアンブルが2人への復讐のためにパリで再会するところで冬霞の本編が始まる。
謎①イネスの自殺の動機が個人的には少し弱い気がするので、オーギュストから結婚の強要より酷いことをされていた可能性あり。本当に好きな人と結婚できないことは作品の時代背景的にもよくあることだし形だけ貴族と結婚したことにして「本当に好きな人」との関係を維持することもできる。仮に、貴族との結婚を断ったイネスがオーギュストから性的虐待を受けて「もう処女じゃないから好きな人とも一緒になるチャンスを失った」(キリスト教における処女性重視)と考えたからかも。それだとキリスト教で禁忌とされる自殺を遂げたのが引っかかる。イネスの「本当に好きな人」がオーギュストで、「本当に好きな人」に別の人との結婚を勧められて自殺を選んだ可能性も捨てきれないけど。
謎②オクターヴの記憶の中のイネスが曖昧。イネスはオクターヴの義理の姉だけど、オクターヴの子供の頃の記憶の中では「時々遊びに来る親戚の女の子」くらいの印象で、オクターヴはアンブルの上にもう1人姉がいたことをジャコブ爺(ヴァレリー家の元主治医)の昔話で思い出すのがどこか不自然。しかも1幕の回想から登場はしてるのに誰も触れないっておかしくない?ずっと「アンブルに似てるけどあの子誰なの」って考えてた。ちなみに、冬霞のモチーフとなったギリシア悲劇「オレステイア」だと、「冬霞~」のイネスに値するエピゲネイアはかなりあっさりと生贄されて死ぬ。謎①のことも踏まえて考えると、オクターヴは子供の頃にイネスの身に何かショッキングなことが起きている様子を偶然見てしまったとかでそのトラウマからイネスを記憶から消した(あやふやにした)とも考えられる。オクターヴの記憶に関しては、父オーギュストと叔父ギヨームもどこか不自然。子供オクターヴとギヨームのやり取りのほうが「父親と息子」っぽい。
謎③「背中のほくろ」の話。アンブル(多分)が「自分と弟は背中の同じ場所にほくろがある」という趣旨のセリフを言ってるけどアンブルはいったいどのタイミングで見たんだろう。欧米には日本のように家族で一緒にお風呂に入る習慣はないからお風呂で見たとは考えにくい。そもそもオクターヴが生まれたのはオーギュストがクロエと再婚する以前なのかそれ以降なのかも気になる。クロエと再婚してから浮気してできた子供ならアンブルが赤ちゃんのオクターヴを世話してたかもしれないけどまあブルジョワだしそれは可能性としては低い。演出の指田先生はオクターヴがアンブルと結局どうなりたいのかを示すためにわざとそういう暗示を散りばめてると思う。ほくろのこともそうだし、あとはアンブルがオクターヴのリボンタイを結ぶ場面もただアンブルからの束縛の隠喩なら結んで終わりでもいいけどアンブルに抱きしめられるオクターヴの表情がどことなく姉に甘えてる弟っていう感じではない。なんでそんな表情なの2人とも。
謎④東京から追加された少女アンブルのセリフ「お母様は私のことも好きじゃない」。この後に「お母様はお父様のことを好きな人が嫌い」が続く。やっぱりアンブルはオーギュストのことが性的な意味で好きだったのか?私は配信見た限りだとアンブルはオーギュストが好きだったから復讐してるけどそれ以上にオクターヴと一緒に居たくて復讐してるように見えた。アンブルはエレクトラコンプレックス説を唱えてる方がいて、エレクトラコンプレックスはギリシア神話が元ネタだし指田先生は1つの要素として盛り込んでるかもしれない。それで少し自分で考えたことは、血縁関係的にはオクターヴの父親はオーギュストだけど、精神的な面で父親の役割をしていたのは実はギヨームで、ギヨームを殺したかったオクターヴはオイディプスコンプレックス説。ギヨームのほうがオクターヴのことを人間として気にかけてる感じ。オーギュストはオクターヴのことは自分の後継ぎくらいにしか考えてなくて、多分オーギュストが殺されずに生きていたらオクターヴはやりたいこともできずある日突然無理やり百貨店の後継ぎにされてオーギュストにいいように使われてたかも。オクターヴが子供の頃、優しく接してたのは逆らわないようにするためか。


オクターヴとアンブルのその後
私は2人が復讐を成し遂げてミッシェルとエルミーヌ以外は死ぬと予想してたから2人が復讐を成し遂げずに、ギヨームとクロエ、オクターヴとアンブルが散り散りになるのは意外だった。
オクターヴの「僕だけの姉さん」とかアンブルに向ける視線とかが姉に向けるものには見えない。オクターヴは家族に愛されなかったから親子とか姉弟とか家族の関係がどういうものか知らないし信用できないからアンブルに対しては恋人みたいな目線でパトロンのブノワにも嫉妬する。なんか、オクターヴはアンブルと血が繋がってないことを薄々気づきつつも知りたくなかったのかも。それをはっきり知ってしまうと姉弟でいることもできないし、かといって恋人になれるかって言われてもそれは微妙。だからそれを知るくらいなら知らないまま姉弟でいるほうがいいし、もうどうにもならないけど恋人として出会って一緒に居たかったのかな。アンブルはアンブルで、母親のクロエも義父のオーギュストも恋愛に奔放な人だったから男女の関係を信用できなくてオクターヴと一緒にい続けるために「姉弟」でいようとして、オクターヴのことを縛っておきたいように見える。「復讐」とやらが終わったらどうするつもりだったの…「もうやめよう…」はもしかしてオクターヴを諌める台詞ではなくて束縛する台詞?多分オクターヴがブノワを殺したことを知ってるのはアンブルだけだろうし、本来の復讐は果たせなくてもオクターヴがブノワを殺した「罪」は2人だけの秘密。アンブルにしてみれば、「秘密」があれば2人はずっと共依存の関係を続けるし、互いの望みを叶えるために、オクターヴとアンブルはお互いを縛りつけて一緒に居られる。でもあの家の人だしやっぱりいつか破綻してまた憎しみが生まれそうだな。巴里を出た2人は行く先々で「夫婦」って言ったり「姉弟」って言ったりしながら転々とする多分。一番悲惨なの結末は、オクターヴとアンブルがミッシェルの目の前でギヨームとクロエを殺して、今度はミッシェルが復讐の亡霊に取り憑かれた人間になって復讐の再生産が行われそう。
でも私は実際に弟がいる姉なので、血が繋がってなくてもずっと家族という関係だった弟からこんな視線向けられたら普通に気持ち悪いと思うからやっぱりオクターヴとアンブルは周りの環境も含めて初めから色々な要素が正常ではなかった。


指田先生の演出について。
まず、お芝居から歌への流れがスムーズだった。ストプレの中に少し歌があるとかじゃなくてちゃんとミュージカル。韻を踏んだ歌詞はおそらく「オレテイア」のコロスの部分を参考にしてると思う。1幕のオクターヴとヴァランタンが歌うロック調の曲がドンジュアンぽくて好き。脚本だと、ブノワがアナーキストの情報提供者と話してるところにオーギュストのセリフが挟まって二重構造になってるところがホラーぽくてよかった。エリーニュスの中にオクターヴの実のお母さんがいて、息子の人生を見てるのかなと思ったり。あと、エリーニュスたちの衣装が遠目に見ると返り血っぽいけどアップだと赤いマーブル模様なところ。指田先生が衣装さんにお願いしてるのかはわかんないけど。


他にも色々考えたいことあるけどこれ以上考えると埒が明かないのでここら辺で一旦やめます。円盤出ないの本当にもったいないな。上田久美子先生が退団されて、「私の好みの演出の先生がいなくなってしまった…」とがっくりしたけど冬霞で初めて見た指田先生の作風はが私の好みだったのでこれからに期待。永久輝さんの真ん中姿も私の期待以上だったのでトップになるのがますます楽しみになりました。

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