「海辺のストルーエンセ」感想

先行画像と公演情報が出た時からずっと楽しみにしていた。私は贔屓の朝美さんが中世または近世のヨーロッパが舞台の宝塚の王道らしい作品で主演することを待ってた。今までの作品が苦手なわけではないけど王道かどうかを聞かれると答えはNoだ。
ヨハン・ストルーエンセはデンマーク王クリスチャン7世の主治医で啓蒙主義者。彼はクリスチャン7世の妃カロリーネと恋愛関係にもあり、悪い言い方をすると一国の王と王妃に取り入って権力を手にして上り詰めた人物。ヨハンとカロリーネの恋愛ではなくクリスチャン7世も含めた主役3人の思想、宮廷の人々の政治の駆け引きにもスポットが当たっている。
印象に残ったのはカロリーネの描き方。カロリーネはイギリスからデンマークへ嫁いできた。生活の違いから宮廷に馴染めず、部屋にこもって哲学書を読んでいる。カロリーネがヨハンの啓蒙思想を受け入れるベースがあったとわかる。私はこれは普通な描写だと思っている。同じ時代を生きたロシアのエカテリーナ2世も啓蒙主義者だった。カロリーネは時にズボン姿で銃を持って舞台を駆け回る。それを見た侍女や周りの人が「お似合いです」と褒め称える。冒頭で「世界を変える」と歌い上げるヨハンの横で幼い頃のカロリーネはドレス姿で銃を持っていた。
クリスチャン7世を通して、トラウマも少し描かれる。当時の医療行為は「血を抜くこと」。それがトラウマになっているクリスチャン7世は処置をしようとするヨハンに「また血を抜くのか?」と声をかける。勉強の場面では、数を間違える度に隣に立つ家庭教師がクリスチャン7世の手を棒で叩く。似た場面が「金色の砂漠」にもある。そんなクリスチャン7世のなりたい姿は神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世。フリードリヒ2世も啓蒙主義者。クリスチャン7世とカロリーネはヨハンを通して「なりたい姿」や「理想の世界」を実現しようとする。

個人的にヨハンが1番掴めない人物だった。私は海外在住なので基本的に配信の1回しか鑑賞できない。ブルーレイで何度も見たら彼のことをもう少し噛み砕くことができると思うのでヨハン・ストルーエンセという人物については後回し。朝美さんの舞台姿についての感想を書きたい。前回の大劇場公演に比べると歌の聴きやすさが格段に良くなっていた。私は朝美さんが歌が下手だとは思わないけれどいつもずっと力が入っている印象があったので。冒頭の歌がとても素晴らしかった。

指田先生の作風は嫌いではない。永久輝さんの東上「冬霞の巴里」も良かった。でも1回しか劇場に身に行けないとか配信しか見られない人には向かないと思う。なぜかというと歌詞の書き込みがかなり細かいから。冬霞でも海辺~でも韻を踏んだ歌詞が多用されていて、表の意味と裏の意味があるように感じる。そのため、100%ではなくても作品を理解するのに歌詞を読み込んだり舞台の端から端まで見たりができない人は少しモヤモヤが残る。配信ではアップになったり引きになったりするので見たい部分があってもそこがアップになるとは限らない。宝塚はリピーターがほとんどなので複数回見たいと思わせるように意図的にこういう作風にしてるのかもしれない。好き嫌いがかなり分かれるし大劇場公演だと学校行事で観劇する学生や観光目的で見る人もいるのでわかりやすさが重要になるのでどうなるのか気になるところ。

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