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ヒント:

火の鳥を観た。几帳面にも公開日をカレンダーアプリに登録していたが、気づけば1ヶ月が経っていた。すでに都内で上映中の映画館は2ヶ所しかなく、早い時間にやっているのは吉祥寺オデヲンだけだった。一人で映画を観るなら、朝がいい。できるだけ早い時間に用事を済ませて、明るいうちに家に帰るのが好きだ。
決して近いわけではないのだけど、何だかんだ半年に一度は吉祥寺に足を運んでいる。しかも、少なくとも直近3回は映画目的で来ている。オデヲンは今回が初めて。フード持ち込みOKとの情報を事前に得て、軽めの朝食を兼ねることにした。そうだ、サブウェイ。吉祥寺にサブウェイあるかな?Googleマップで確認すると、ある!決まり。サブウェイでテイクアウトして、映画館で食べよう!地方出身の私にとって、サブウェイは大人になってから出会った都会の食べ物で、つい2週間前に幼馴染を私のサブウェイデビューに付き合わせたばかりだった。ミキティと庄司が車の中でただサブウェイ食べてる動画見て、私もどうしても食べたくなってしまった。今日は、ツナと「生ハム&マスカルポーネ」のハーフ&ハーフを選んだ。オーダーにはまだ慣れそうもないが、幼馴染を真似て、オリーブとピクルスは必ず追加すべきだということは覚えた。この前のアボカドチキンよりは軽かったけど、やっぱりめちゃくちゃ美味しくて、気持ちが満たされた。平日朝に初めての映画館で一人映画を観る、ウィズサブウェイ。この上ない幸せを感じる。予告の間になんとか食べ終えて、なるべく音を立てないように、しかし手早く包み紙を丸めて、ちょうど本編が始まった。

火の鳥というよりも手塚治虫が好きで、好きというよりも、幼少期から馴染みのある作家だったので、昔から関心を向けている。父の書棚に全巻揃っていたブラックジャックを読んで育った。父が学生時代から常連だった古い居酒屋にもユニコが置いてあった。母もユニコを「すごく可愛くてすごく切ない」と言っていた。小学生の頃に、アトムの秘密、みたいな本を買ってもらったことがある。小1から小3まで住んでいた街では、学校の運動会は地区ごとの対抗で、各地区に応援歌があり、私の地区はアトムの替え歌だった。ご近所の繋がりがとても強い街だった。大人になってからできた年の離れた友人に火の鳥の文庫版コミックを借りて読んだ。本の貸し借りが好きだ。内容はあまり覚えていない。
映画が終わるとまだ1時間半しか経っていなくて、思ったより短かったような、軽めで助かったような、程よい具合だった。漫画で読めばボリュームがありそうなところを駆け足でさらった感じがあって、面白いとかつまらないとかそういう気持ちにはならずに、しかし良い時間の使い方をできた充足感を得た。あまりにも心の状態にガッチリとはまってしまうと、圧倒されて、その日はきっともう何もできない。今日は免許の更新に行かねばならなかったから、そういう意味でもちょうどよかった。
幼い頃から手塚治虫を身近に感じながら育ってきたけれど、ただ馴染みがあるから気になるというだけの存在ではもうないような気がする。彼の作品が気になるのは、命のこと、生き死にのこと、それに伴う希望や絶望について教えてもらえるからかもしれない。人は常に誰かの生死と共に生きている。

昨日の昼休みに、チバユウスケが亡くなったというニュースを見て、大ファンの幼馴染が心配になり連絡した。母と夫と泣きあって少し落ち着いたが、今日は仕事を早退する、と言っていた。返信を読んで安心するのと同時に、こういう時に一緒に泣ける人がいるということを何だかとても尊いものに思えて、やはり私は結婚したいらしいと改めて認識した。人が亡くなるのはとても悲しいことだけど、みんないつかは死ぬわけで、自分が歳を重ねれば重ねるほど、大切な誰かの死を経験するのが自然なはずで。大切な誰かが亡くなった時、私はどうやって眠りにつくんだろうか。同じだけ悲しくなんてなれるはずがなくとも、せめて人のいる家で眠りたい、と思った。

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