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フィナンシェ

「〇〇が無性に食べたい」

誰しも一度は思ったことがあるはず。僕はこうなったら最後、それを食べるまで他に何も手につかなくなってしまう。 

 

先日僕は、フィナンシェが無性に食べたくなった。

こんなにフィナンシェを食べたいと思ったことは人生で一度もない。ああフィナンシェ食べたい気分だなあ、と思ったこともない。フィナンシェに思い入れもない。最近いつ食べたかの記憶もない。それでも頭の中をフィナンシェが駆け巡る。あの日、僕は確かにフィナンシェに夢中だった。

 

よし、夜にフィナンシェを食べよう。
そう決めた僕は、夜ご飯をスープと豆腐にした。夕食よりもフィナンシェを優先した形だ。フィナンシェにイニシアチブを取られた格好とも言える。ササッと夕食を済ませ、自転車にまたがり夜の街へ。

そもそもフィナンシェがどこで売っているかご存じだろうか。実はコンビニにある。店舗によるけど、
①スイーツコーナーの冷蔵棚の上
②パンコーナーの横
③よくわからないコーナーの棚、
このどこかにある。小さいサイズのパウンドケーキや1枚130円ぐらいするふにゃふにゃクッキー等と一緒に並んでいる。こんなところでコンビニバイトの経験が生きるのだから人生わからない。バイト経験が無ければ、フィナンシェを見つけ出せず路頭に迷っていただろう。
そういえば、あの棚に置いてあるやたらと小高いものは滅多に買わないが、1枚130円もするクッキーは美味しいに決まっている。フィナンシェはそこと同列の扱いなのだから、そこのフィナンシェも美味しいに決まっている。
自転車をこぐスピードが上がった。

コンビニに向かう道中、ふと思った。もしフィナンシェが無かったらどうしよう。フィナンシェが売れ筋商品とは思えないが、だからこそ仕入れが甘いかもしれない。品切れの可能性は十分ある。そもそも、今から向かうコンビニではフィナンシェを取り扱っていないかもしれない。

バターの香り・・・
ふわふわでしっとりした生地・・・
口の中でとろける甘さ・・・

これがフィナンシェの個性。これを兼ね備えるものは他に・・・いた。

マドレーヌだ。

仕方ない、フィナンシェがもし無かったらマドレーヌに変更しよう。フィナンシェとマドレーヌには共通点が多い。マドレーヌでも満足できそうだ。じゃあもしマドレーヌも無かったら?
そんな時はバウムクーヘンがある。バウムクーヘンならスイーツコーナーでよく見かける。袋に入ったミニバウムクーヘンもあったはず。フィナンシェには及ばないが十分代役は務まる。最悪バウムクーヘンにしよう。

フィナンシェとそのお友達に想いを馳せながら、気がつけばコンビニに着いていた。

中へ入ると僕は、一目散にフィナンシェコーナーへ向かった。不思議なことにフィナンシェがどこにいるのか直感的にわかる。フィナンシェに引き寄せられる。
これが引き寄せの法則?
はたまたゾーンに入ったというやつ?


フィナンシェコーナーはパン棚の横にあった。このコーナー、スカスカだ。人気が無いため補充が甘いのだろう。予測通り。これならフィナンシェを独り占めできそうだ。フィナンシェはもう僕のもの。

そう思ったのだが、あろうことかフィナンシェが1個しか無い。嘘だ...

フィナンシェを欲した人間が同じ時間同じ地域に僕以外にもいたとでもいうのか。膨れ上がったフィナンシェへの期待は3個ぐらい買い占めないとしぼんでくれそうに無いぞ。
しかも思った以上に1個が小さい。フィナンシェって小さいのか。そんな小さいフィナンシェがなぜ品薄状態になるのか。コンビニのマーケティング事情に疑問を抱きながら最後の一個、ラストフィナンシェを握りしめた。 

もちろんこのサイズでは満たされない。
でも、こんなリスクは道中に想定内。フィナンシェがなければマドレーヌを買えばいいじゃない。フィナンシェのお友達を呼べばいいだけ。友達はすぐ近くにいた。

しかしここで問題が発生。

フィナンシェのもう一人のお友達バウムクーヘンもいたのだ。しかも2種類。

つまり、
小さいフィナンシェ1個
マドレーヌ1個
バウムクーヘン A 1個
バウムクーヘン B 1個

というラインナップ。
これは困った。どのお友達を選ぼうか。フィナンシェフレンズ、どれも美味しそうである。なんならフィナンシェが一番普通なぐらい、お友達が魅力的に見える。くそう、優柔不断な性格を恨む。
ここからここまで棚のものぜーんぶ!なんてVIPな買い方も一瞬よぎったが、そういうことじゃないんだ。うまく言えないけど、僕はフィナンシェともう一人だけのお友達を選ばないといけないのだ。

 

成分を見たり、値段を比べたり、持って重さを比べたり、カロリーを気にしたり、あれこれ検討を重ねた結果、僕はマドレーヌを選んだ。
理由は「2番目のお友達」だからだ。これならフィナンシェもきっと喜んでくれる。

こうしてフィナンシェとマドレーヌと、ちょっとリッチなホットコーヒーと、翌日の昼食を買ってコンビニを後にした。自動ドアを通る僕は、とても清々しい気持ちだった。

 

家に帰ると、すぐにフィナンシェを食べた。一口一口噛みしめながら味わった。バターの香り。卵の風味。絶妙な食感。とろける甘さ。全てが一体となったフィナンシェ。たまらなく美味しい。

 

僕はフィナンシェと一つになった。こんなにフィナンシェを求めることはもう2度と無いだろうから、記念にnoteに残しておくことにする。

 


 

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