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【美術ブックリスト】 『この国(近代日本)の芸術 〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』小田原のどか、山本浩貴編

【概要】
作家、キュレーター、研究者による論考とインタビューを収録。〈日本美術史〉、天皇制、〈近代〉、レイシズムといった観点から、この国の美術と美術史を問い直し、解体・再編する試みが図られる。美術の現場に残る戦前の帝国主義、戦後のナショナリズムの痕跡を白日の下にさらす。

【感想】
アイヌ、沖縄、在日朝鮮人、障がい者といったいわゆるマイノリティの立場の人々へのインタビューや論考の集成。隠蔽されてきた彼らの文化や思考から、日本美術史に光を当ててそのフィクション性を炙りだしていく。

日本美術史が帝国主義的な歴史観によるフィクションであることを、さまざまな角度から論証していくのだけども、そもそもあらゆる歴史がフィクションであり、と同時に過去と現在との対話であり、常に訂正され、覆されていくものである。国家による保守的な歴史観と自民族中心、男性中心、中央中心の美術史をアップデートするには、本書のような断片的な告発の書に加えて、これまでとは別の歴史観に根差した通史が必要ではないか。さらに新しい画集や教科書が必要であり、大学の科目となり、学会で話題となり、美術館で展覧会が開催されないといけないのではないか、つまり「新しい日本美術史」の編纂が必要ではないかと思った次第。

月曜社◉刊 四六判 852ページ 3600円

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【主な目次と執筆者】
第1章 虚構としての〈日本美術史〉|加藤弘子・富澤ケイ愛理子/マユンキキ/菊池裕子
第2章 脱帝国の美術史①|嶋田美子/中嶋泉/吉良智子
第3章 脱帝国の美術史②|飯山由貴/長津結一郎/穂積利明
第4章 天皇(制)をめぐって|北原恵/千葉慶/小泉明郎
第5章 戦後アジアを再考する|馬定延/琴仙姫/大坂紘一郎/山本浩貴
第6章 〈近代〉を問い直す|國盛麻衣佳/小金沢智/足立元
第7章 レイシズムを可視化する|吉國元/山本浩貴/小田原のどか


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