2019.6.19 桜桃忌ですね。

あなたの煙草を一本くすねて、夜の明けぬうちに火をつけた。あの頃と変わらず嫌いな味で、メンソールが嫌に喉を撫でて、後味が綺麗で、死んでしまいたくなりました。死んでしまいたくなりました。苦いものが食べられるようになると大人なのか、苦いものを嘘ではなく好きと思えるなら大人なのか、知らないけど。どちらにせよ私はいつからか大人だった。あの頃は良かった、なんて当然のことを、うっとり答えるような女になりたくなくて、あの頃も、いつかも、今ですら、全てがなんとなく存在しているだけで、主観を無視して、今日は布団を干そうと思い立つ。重いな。私一人では、きっと。

歴史を燃やしたところで、心まで消してしまえるような簡単な世界ではない。思い出は勝手に綺麗になって、手が届かなくなる。思い出は、今日、今、大切にする方法がない代わりに、されない代わりに、1秒1秒後退する毎、手を伸ばされて、悲しいのか嬉しいのかわからない顔で、こちらを眺めて微笑している。

心から人を好きになることができて良かった。始まりも終わりも知ることができて良かった。また詩が書けます。また詩が書けます。心から人を好きになることも、始まりも、終わりも、簡単なものでした。簡単なものですが、いつもひとりだったわたしには難易度が高すぎたようです。嬉しいな。殺す気もないくせに締められた首は、今も規則正しく脈を打っています。

好きな人に似合う歌を聞けば良い。わたしの嫌いな歌を、好きだとあなたが笑う度、これで良かったのだと、朧月夜を流します。もう来ることのないこれからを、新しい匂いで更に殺して、いいよ、私は桃の香りをどこか遠くにつれてゆく。ゆく。ゆく。ゆくのだ、どこまでも。車の走れない道を。もうあなたの助手席に乗ることはないのだから、わたしは買い与えてもらった白いサンダルを片付けて、丈夫なスニーカーを履く。汚れの目立たない、暗い色がいいな。あなたが足元を見て、笑っている。重くてうまく走れそうにないよ。

染めたことのない黒髪は、長い金髪に照らされて、あっけなく新しい朝となった。新しいおうちで、新しい毛布にくるまって一人、馬鹿らしくて笑った。本なんて読まなくていいんです。知らないことなんて、知らなくていいんです。知らないままでいいんです。幸せのあり方があればあるほど同じ数だけ期待して、期待した分泣くことになる。美しい終わり方のために、毎日を犠牲にしてきた。心を無下にしてきた。全ては終わり方のために、美しい、正しくて、求めたそのもの、その終わり方のために、そして、馬鹿なわたしは、唯一の勝負所でしくじった。分からなかったのだ。死んだことがないから、死後の世界が分からないのと同じように。間違えた。間違えたのかどうかすら、分からない、今何が正解で、縋るものは何であって、疑うのは、許すのは、見破るべきものは、嘘をつくのは、愛するのは、愛すべきものは、愛するというのは、愛を、感じていたという事実すら、そうですね、幻なのでしょうか。



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