月面の年の瀬 小説

月面開発基地、コペルニクス基地では今年も終わりを迎えている。みんな騒ぐわけでもなく、メンテナンスをする人は定期メンテナンスをしに行き、隕石の接近を監視する人はモニターを眺めている。医師も患者のモニタリングをしていて特に変わったことはなさそうだ。
それぞれの宗教で年末を迎える用意をするようだが、まぁそこまでだいそれたことはできない。地球からの定期便は1月2日まではこない。物資を派手に使って大変なことになるのは避けたいのだ。
月面基地の空気対流システムのAIを担当している私はまわりの人に許可をもらってからふらっと散歩に出かけることにした。
どこにいくわけでもなく、散歩していると年末の星空はいつもとどう違うのか気になった。そこでムーンウォークをすることにした。
コペルニクス基地の第一エアロックに到達した。所定の書類にサインをして、GPS発信機と宇宙服を受け取り、これからというときに誰か区画に入ってきた。この人は飛行士のエレナだったか?まぁ話したことはない。
「あなたもムーンウォーク?」
そういってきた。
「そうです。年末の星空はどんなものか知りたくて」
彼女はおもむろに近づいてはにかんだように見えた。一緒に行くか。エアロックに入って警告音が鳴った後に扉が開いた。
まず地球が目に映る。地球の年末はどんなだっただろう?ニューヨークではバカ騒ぎをしている連中がいるんだろうか?ケンブリッジは静かか?などと思っているとエレナが通信を入れてきた。
「あなたはいつからここに?」
「今年からです」
そういって振り返る。
「私は3度目の月面での年越し。なぜだか年越しのムーンウォークがやめられない」
彼女はそういうと隣に並んだ。居心地が悪くなってとっさに
「へびつかい座はどこでしたっけ?」
といった。
GPSで確認すれば済むことだ。だが聞かずにはいられなかった。しばらくして方角が分かり、星座や核融合、摂動論について話すことになった。ちょっと変わった年末になった。

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