老後破産 長寿という悪夢 感想

ブックオフでsfを探そうとしてさまよっていたらこの本を見つけたので買った。NHKスペシャル取材班著。明らかに私より優秀そうな人が書いてそうだ。
病院を行くのを控えていたり、食事を切り詰めているというのが強調されていた。現状の社会保障制度がこういうものを生んでいるという論調で書かれている印象も受けた。その具体例としての個々のケースが取り上げられている。会計学でよくあるケーススタディのようなもんか?

ここでよく強調されているごく普通とはなんだろうか?被雇用者として働くこと?経営者として活動すること?その普通というのが見えない。被雇用者といっても専門性には違いがあるし、労働契約はそれぞれ異なる。

田代さんの状況について。この人は旧制中学を卒業してからビールメーカーで働いて、40代で居酒屋を経営しようとして破産。現在の社会経済状況に至る。なぜ預貯金がないかというと退職金と貯金で事業を始めたからだ。ここで疑問が生まれる。なぜ自己資本のみで事業をしようとしたのだろうか?事業を始めたのが1980年代のバブル経済崩壊前だったから不自然のように思う。スタートアップだって自己資本で始めるというのはあまり聞かない。資本計画を立てるときにバランスシートを作って、負債がどれくらいになるか確認しなかったのだろうか?なぜ信用金庫や労働金庫、または都市銀行に相談しなかったのだろうか?なぜ飲食業の廃業率を調べようとしなかったのだろうか?自分で挑戦しなくても同じような志を持つ人に出資するという形で関わるという選択肢はなかったのだろか?
会計に関わる疑問、経営関わる疑問、経済状況の判断に関する疑問、などが様々に浮かぶ。なぜ?こんな極端でハイリスク、ローリターンなことをしたのだろうか?
この人は退職金をもらえるくらいには恵まれていた。だが認知的な部分でハンディキャップのようなものがあったのかもしれない。信頼できる友人はどこにいたのだろうか?
食事も100円ショップで調達している。100円ショップはgあたりで見ると高い食品が多い。もっと安く調達できるところは東京ならいくらでもある。最悪百貨店の労働組合の人に廃棄を譲ってもらうようにごねるというのも選択肢のうちだ。そうでなくても飲食店の廃棄はたくさんあるので頼み込めばもらえる可能性はある。食を切り詰める必要が東京ではまずない。

仮名、菊池さんの例。彼女は夫と死に別れたあと、リュウマチに罹患し生活に制限がかかっている。リュウマチは根治はできない。対症療法が中心となる。進行を抑える、苦痛をコントロールする、身体機能を保つ。これが方針となる。このあたりのこと、例えば高額療養費制度をどう使っているのかについて触れられていなかったのが不自然だった。都営住宅に住んでいるから家賃の面では恵まれている。夫が亡くなったから生活が厳しくなったというが、預貯金はどうなんだろう?夫は大工をやっていた。高度成長なら給与も今より恵まれているだろうし、社会保障費もそこまで高くない。それに金利も恵まれていて10%から8%くらいだったようだ。年に200万くらい貯金するとして30年続けていれば6000万になる。この人は慎重に生きていたというがそれくらいのお金に関する想像力は多分あったはずだ。なぜこうなったのだろうか?お金の使い方について疑問が絶えない。

他の事例は農地を守りたいからという理由で生活保護を軽視して利用しなかったり、生活保護を利用できることを調べようともしていなかったりというのが続いていた。生存権を憲法に加えた人の精神を軽視しているのではないかという印象を抱いた。

今の社会保障費は昔に比べると相当な負担だ。確か20年前の3倍位になっているらしい。それに給与水準は平均で見た場合上がってはいない。パートタイムの人が増えたというのが大きいと思うが、給与水準が300万円くらいの職種がある一定数存在するからというのもある。それで生活しているとしたらどうなのだろうか?
失敗することは誰にでもある。だがとことん調べてから失敗してほしいという思いがある。あと生活保護は最強。社会保障に勝るシステムはあまりない。

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