明けた夜 小説のようなもの

いまベーシックインカム基本法が可決されようとしている。ここまでの道のりは単純なものではなかった。

最初は給付つき税額控除から始まった。それから年金制度の改革では裕福と定義されている高齢者に対する課税によって貧困状態の高齢者を支える仕組みができた。
次に健康保険の適用範囲や薬価の改定が進んだ。寝たきり老人のための医療サービスには自己負担額をこれまでの3割負担から6割負担に変えることとなり、QOLが上がらず治療の見込みのない人には積極的安楽死が認められるようになった。予防医療が推奨され、病院が老人の社交の場となる風景が過去のものになった。
マイナンバー制度のシステムからデータを抽出し、そこからどのような疾病が起こりやすいのかを解析しやすくなったことが予防医療に寄与している。薬価の改定は人の手ではなく、深層学習をベースにした推論システムで行われているのだ。
全世代型社会保障からの転換には多くの抵抗があった。厚生労働省は困難なことを理由に消極的で、医師会からも懸念の声がたくさんあった。だが、与党の改革を志す人々、野党の現状を分析して提案をしようとする人々、シンクタンク、財務省の有志、デジタル庁のシステム策定者、内閣府の担当者などが協力して全世代型社会保障からの転換をはかることができた。

社会保障改革からベーシックインカムの制度を実装するまでにも多くの抵抗があった。まずは財務省の一部から税負担で国家運営ができなくなるというものが出始めた。それを受けて与党はまず特区で実験をすることにした。路上生活者の数が一番多い自治体が選ばれることになった。
そこで2年間実験をして分かったのは、たばこや酒にあまり消費しないことだった。それよりも食品や家賃の一部に回す人々が多数派だった。いままで比較的余裕があった人々は芸術品や芸術家に対する直接の支援という形でお金を使い始めた。ベーシックインカムをベーシックインカムだけでは足りない人に贈与するというものも出始めた。
ベーシックインカムのシステムでは個人の名前はわからないが、どのように課税されたかを根拠に大まかなお金の流れを把握することはできるようである。
実験結果を受けてベーシックインカムに否定的な議員も自助、共助、公助の仕組みとして有効なのではないかというものが増え始めた。ベーシックインカムのシステムでは生活保護のように審査するものはいらない。行政のスリム化もできる。ということで徐々に賛同するものが増え始めていった。

これまでの改革と合わせて、10代から50代までの可処分所得は増える傾向となった。これにより徐々にではあるが、家計部門の自己に対する投資のための出費が増え、働きながら大学院に行くものも増え始めていった。

そこで総選挙である。与党も野党もベーシックインカムに肯定か、否定かで争われた。国民の投票率は8割までにのぼり、熱気が国中に溢れ始めていった。

とりあえずこういう流れでやってみる。

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