ココロの眼‐第五章 伊藤さん

お父さん。

 とは、呼べない。

 呼べとも言われてないから呼ばないのだけど、世の中ではこういった関係性でもお父さんなのだろうから、いつかは呼ぶべきかなと思ったことはあるけど、多分呼べない。

 高校三年生になっても、それは必ず定期的にやってくる。母と別れた男となにかの契約に則って実施されるボクとその男の、変な時間。

 最近ではそんな感じでも、この人が父という立ち位置の人だって認識してるし、誰かに聞かれれば
これが父ですとも言える。
 でも、お父さんとは呼べないというよりは、お父さんという人はボクにはいない。

 かあさんと父が離婚したのは、ボクが三歳になったばかりの時だったらしい。
 父はその別れた理由をなんやかんやと言っていた。かあさんの悪口ではないんだといいながら、必ずあったはずの自分の悪かったところは言わずに、「アイツはさ」とか、「アイツのな」とか言っていた。
 だから、あまり信用していない。
 さらに、「アイツなんて言ってる?」とか、「なにしてる?」とか、自分では知ることのできない情報をボクから得ようする感じも気に障った。だから、変な時間だった。
 かあさんは父のことを話すことはほとんどなかったし、父とボクとの変な時間になにが起きたとか、なにを話しただとか聞かれたことは、一切ない。
 そんなかあさんは、信用している。
 もっと言うなら、そういうかあさんが好きだ。
 直接言ったりはしないけど。

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