ワタシの大切なボク-第6話 7人家族と

大人になってから兄弟5人が揃うのはお正月か親戚の冠婚葬祭くらいしかなかった。
 冠婚葬祭の場に5人兄弟が黒のスーツで揃えば、それはちゃんとした「組の集まり」にしか見えなくて、ボクが俳優だとするなら冠婚葬祭の式がさながら「仁義なき戦い」撮影の本番で、それまでの着替えとか待ち時間とか、式場に向けて5人それぞれが歩いてく様子はジャッキーチェンの映画でお決まりだった撮影前後の未公開シーンを撮られているような感じがして、なんか好きなシチュエーションだった。


 僕の身長は178センチ。
 これも生まれた順番と同じで4番目だった。
 身長は5番目の三男イサオでも170センチは超えてたはずだから、デカいのばっかりの真っ黒のシングルスーツ5人。
 その最後尾をゆっくりと歩く男。
 身長は160センチそこそこ。
 ちょっと緩めの黒のダブルのスーツ。
 そのまた一歩後ろを黒の着物ではなかった。
 黒のワンピースに低いヒールで付いてくる170センチに迫る女。
 金子信雄役とかたせ梨乃役の父と母が揃って一家の体裁が整うと撮影本番。
 主人公のジャッキーチェンの大活躍する本編こそが本番である映画の本分に思いっきりハマってたけど、思えば最後に流れるスタント撮影前のスタッフやジャッキーの緊張感、NGシーン、カット!がかかった後の主人公のジャッキーから役者という職業人に戻ったジャッキーの笑顔とか、映画館という時空では観たことのなかった革新的なエンドーロールにもハマってたのかもしれない。

 親戚の結婚式やお葬式でボクのスタントシーンはなかったけど、本番前に久々に会う兄や弟と間を持たせるためだけの会話だったり、兄のスーツの着こなしを真似たり、父と母の忘れ物はないか?なんて毎度のやりとり、弟に焼香ってアレ何回やんだっけ?とか。
 本番が終わればネクタイを外し、白のワイシャツのボタンを2個外す兄がかっこいいなと思ってもそれはちょっと真似できなかったり、酔っ払って間とか関係なくなる会話に変わってくる変遷とか、あんだけ言ったろ!って怒ってる父にケラケラ笑ってる忘れ物の犯人の母。
 家族を感じたり、学んだりしてだのだと思う。

 本番があるからその前と後があって、その前と後が好きだと言っても、本番がなければ前も後もない。

 本番の「婚」は単純に楽しい。
 「葬」は楽しくはない。
 楽しくはないことも生きものは死んじゃうからいつか必ずやってくるのだろう。
 そんなことは頭ではよく理解しても、あの人が?ってことがあると楽しくはないどころか悲しい。その悲しいにも差があることをボクは知っていて、死んじゃうという事実は誰にでも必ずやってくるから差はないけど、どうして死んじゃったのか?って事がわかることとわからないことでは悲しいに差がある。
 だから、ある時ボクの中に生じた悲しいの差、その差を埋めるためにボクのなかで決めた事がある。

 あの人は病気だった。

 病気による事故だった。

 そうだと思うし、そう決めている。
 悲しいの差は自分で埋められた気がしてるし、年に数回しか会わなかった人がいつも自分の近くにいるようになった気がしてるし、応援してくれてる気がするし、うるさいことを直接は言われないのは助かるし、いつも遠いところから気にかけてくれていることに感謝している自分がいることもありだと思ってる。

 だから、今もボクは7人家族、5人兄弟の四男のシンイチに変わりない。

【目次】
 第1話 巨人の星と
 第2話 イダパンと
 第3話 口裂け女と
 第4話 弟と
 第5話 兄と
 第6話 7人家族と
 第7話 高校野球と
 第8話 病院と
 第9話 アトピーと
 第10話 先生と

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