ワタシの大切なボク-第2話 イダパンと

父は板金加工の機械販売の会社を自分で起こしたが、上手く行かなくなり、同業の会社に吸収してもらって、それまで培った技術や人脈をそのまま活かせる仕事に就いた。父を迎え入れた会社は大阪が本社だったから、ボクらが住む埼玉の自宅に帰ってくるのは数ヶ月に数日だった気がする。

 兄弟は男ばっかりの5人兄弟。

 ボクは4男。
長男、次男、三男くらいは当たり前の時代背景だったが、ヨンナンともなると音を聞いても四男という漢字に変換はしづらかったと思う。
弟が有していたゴナンの称号までいけばネタとして使えそうな気がして羨ましかったけど、今思えばヨンナンも笑いに変える使い勝手は悪くない。

 ボクの仇名【あだな】はイダパンだった。
パンの由来はわからない。
「イダパンちってパン屋なの?」
と自宅がどこにあって、その家がパン屋じゃない普通の建売住宅なのは知ってる奴からも、よくそう聞かれた。
パン屋のおろし業者なのか?という質問じゃなかった気がするし実際それも違う。
なんならパンが好きなわけでもなく、どちらかといえば米派だ。
その米からなのかもしれない。
ボクの苗字は飯田という。
よくよく見ればなんとも米米しい。
ご飯のタンボ。イイダのごはん。イイダごはん。イダパン?

 うちには5人のイダパンがいた。

 家の電話が鳴る。
母が出る。
相手は
「あのー、飯田くんいますか?」
家に電話をするとなれば仇名では呼び出さない配慮くらいはする誰かの友達からだ。
母が答える。

 「あのねー、うちは飯田くんが5人いるのー。」

 と笑っている。
「あーー!そうですよね!すいません!じゃ、イダパンお願いします!」
と、確かにあいつんとこ兄弟多かったなってことを思い出し、母のちょっと緩んだ声にも乗じて仇名で特定出来るだろうと思うのも仕方がない。
これに母は待ってましたとばかりに、

「あのねー、うちには、イダパンも5人いるのー!」

 とじゃれる。

 なんだそれ?って思ったと思う。
あのイダパンが5人?分身??ゴレンジャーならあいつ何色だ?おそ松んちなら?ん?オレ遊ばれてんのか?混乱したと思う。

 「確か、3番目だったかと。。」
と絞り出すと、母のお遊びもここで終了ということで

 「イサオね!」

 「そうそう。イサオ、、だったと、、思います。。」

 イダパンとしか読んだことがないからイサオはピンとこない。
この過程を経て飯田組3代目イダパンである三男イサオが呼ばれる。
なんてことがよくあった。

そんな母は保険外交員をしている。
ほぼ父は家にいない。
また事業もうまく行かなかったことの補填の役割も母にはあったのだろう。
図体のデカイ男5人を食わせるのは簡単じゃない。

 男ばっかりの5人の息子と朝から晩まで働く母。

 たまに帰ってくる父。

 そんな家族の中にボクはいた。

 今も7人家族ではあるのには変わりはないのだろう。
でも、肉体という個体は年を重ねて行くごとに悲しいけど減っていった。

【目次】
 第1話 巨人の星と
 第2話 イダパンと
 第3話 口裂け女と
 第4話 弟と
 第5話 兄と
 第6話 7人家族と
 第7話 高校野球と
 第8話 病院と
 第9話 アトピーと
 第10話 先生と

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