見出し画像

缶詰の中身は|#6

図書館からバスに乗り、最寄りのバス停で降りる。
バス停からの道は店などが特になく、ぽつり、ぽつりと点在する街灯が続き、田舎だなぁと思わせるような景色が続いていた。


本が読みたい。高鳴る気持ちに自然と足も早くなる。

街灯がまばらな道は薄暗くなりはじめたのもあり、あまり長居はしたくない雰囲気。余計に足は家へと急いだ。


ふと、正面から誰かがこちらに歩いてくるのが見える。長い髪を揺らしながら歩く姿からして、きっと女性だろう。
その手には何かが握られており、どうやら話しかけながら歩いているようだった。


女性は話すのに夢中で、こちらに気がついていない。声はだんだんと大きくなり、会話の内容の節々がわかるほどだ。


「お姉ちゃん、一人で住んどるん?」

「一人で住んでますが…」

「ほな、なおさら都合ええわな。一人で話しとっても誰も怪しまんやろ」


警戒心がいくぶんか滲んだ女性の声と、この町には似つかわしくない軽快な関西弁。
やばい人かと思ったけれど、どうやら謎の"何か"に絡まれているようだった。


すれ違いざまに、半身で女性を避けようとする。しかし、女性は手元の"何か"に夢中で、とっさの判断が遅れた。
肩と肩が軽くぶつかり、予想外の衝撃にわたしも女性もよろけてしまった。


「あ……!」


バランスを崩したわたしは、その場にこけてしまった。その反動で、かばんからはバラバラと本がなだれ出る。

女性も女性で、手元の"何か"を落としそうになるも、なんとか持ちこたえたようだった。


「す、すみません…!!」


女性は血相を変え、大慌てでこちらに来ると、本を拾い上げてわたしを立ち上がらせてくれた。


「お怪我はありませんでしたか……?大切な本も、すみません……」


大丈夫だと答えると、「ほんまに怪我ないんか?」と手元の"何か"もこちらを心配しているようだった。

そんなことよりも、手元の"何か"が気になって仕方がない。


一方、女性は手元の"何か"が声を発したことに顔色を悪くしている。
どう釈明しようかを必死に考えているようだった。


「なんや、もうこうなったんさかいに、ちゃんと説明しんとな」


その声に従い、女性はしぶしぶ切り出した。


「こんなこと言っても怪しまれるだけかもしれませんが……どうやら、月の缶詰を拾ってしまったようなんです……。最初からこのように話しかけてきて、私も戸惑っていたところです」


カラン、コロンと音を立てる缶詰め。そっと女性が中を見せてくる。
なんだか石ころのようなものが中で転がっているのが見えた。


「月……ですか」

「月やってば」


間髪入れずに月は答える。「まだ生まれたばかりだそうです」と女性は補足するようにつぶやいた。

月がなぜ缶詰に?とか、生まれたばかりの月???とか、いろいろ頭の中をモヤモヤと思考が交差する。あわあわとするわたしの様子を見て、女性は少し笑った。


「私もまだ、混乱しているんです。なのに、この月は当たり前のように話すものだから……あなたに気づくのが遅れてしまいました。ほんとうにごめんなさいね」


「なんや、僕が悪いんか?!」という声が聞こえたような気がしたが、聞こえなかったフリをして女性と笑い合う。


「さて、夜道は危ないですし、そろそろ帰りましょうか」と女性は切り出す。女性もこの夜道を歩くのは、いくら缶入りの月がいても危ないだろう。

「それでは」と缶詰を片手に、女性は去っていった。


少し距離が離れても、かすかに軽快な関西弁が聞こえてくる。
なんだか、不思議なことがたくさん起きるなぁ、と誰もいない夜空を見上げながら家路についた。



※関西弁、エセです…お見苦しくて申し訳ございません。

※アイキャッチ画像は素敵なお写真をお借りしています。ありがとうございます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?