見出し画像

夜間の目撃証言は当てにならない

昼間と夜間の目撃証言の正確さについて調べた論文があったのでメモ(1)。

過去の研究を見ると犯人に関する目撃証言は現場の状況(e.g.犯人が凶器を持っていた)などで信頼性が大きく下がることが分かっています。具体的な例を挙げると以下のようなものがあります。

・後から情報が追加されると,記憶が改ざんされる(事後情報効果,2
・感情が強く喚起されると,感情の引き金となった対象の記憶は残るが,周辺の記憶の詳細は思い出しにくくなる(フラッシュバルブ記憶,3
・犯行現場で犯人が凶器を持っていると凶器に注意が向き,凶器以外の記憶が曖昧になる(凶器注目効果,4

このように感情が喚起されるような犯罪現場の記憶は現場周辺の情報を思い出すことが難しく,犯行時後の情報(e.g. 聞き取り)によっても記憶は変化します。

今回紹介する論文は犯行現場の明るさによって犯行現場に関する記憶はどう変化するのかを教えてくれます。

画像3

1986年にアイオワ州立大学のヤニー・ダンが環境の明るさによって事件現場の記憶に違いが生じるのかについて調べるために実験を行いました。

対象になったのは大学生128名でした。

実験参加者をランダムに4つのグループに分け,実験現場のビデオを見てもらいました。その4つのグループの違いは以下の通りで,ビデオの観察状況を変えました

<グループ1>
昼間ぐらいの明るさ

<グループ2>
日の出ほどの明るさ

<グループ3>
日の入りほどの明るさ

<グループ4>
夜分の明るさ

このようにビデオの観察状況に変化を設け,ビデオのすべて見終わった後に詳細を思い出してもらいました。

画像1

実験の結果,夜間の犯行場面を想定した明るさで犯行場面のビデオを観察した場合,他の昼間や日の入り,日の出のような明るさでビデオを観察した場合と比較してビデオの詳細に関する記憶を思い出すことができませんでした。

夜間の犯行場面を想定した明るさで犯行場面のビデオを観察した場合に思い出した記憶の正確さは約10%ほどでした。

またすべての明るさの観察状況において現場の環境に関する記憶よりも犯人や被告人に関する記憶のほうがよく記憶に残っていました。

他の研究でも観察状況が暗いところでは目撃証言が不正確であることが論じられており,目撃証言が信用に足る条件として15m以内で15 lux(映画館の始まる前の明るさ)の観察状況であることが必要であると提言されているものもあります(15の法則,5)。

画像2

(1)Yarmey, A. D. (1986). Verbal, visual, and voice identification of a rape suspect under different levels of illumination. Journal of Applied Psychology, 71(3), 363.

(2)Loftus, F., et al. (1978). Semantic Integration of Verbal Information into a Visual Memory. Journal of Experimental Psychology Human Learning and Memory, 1,19-31.

(3)Bohannon J. N., 3rd (1988). Flashbulb memories for the space shuttle disaster: a tale of two theories. Cognition, 29(2), 179–196.

(4)Burke, A., Heuer, F., & Reisberg, D. (1992). Remembering emotional events. Memory & Cognition, 20(3), 277–290.

(5)Wagenar, W, A. & Van Der Schrier, J, H. (2005). Familiar face recognition as a function of distance and illumination: a practical tool for use in the courtroom, Psychology, Crime & Law, 11, 87-97.

■目撃証言/エリザベス ロフタス (著), キャサリン ケッチャム (著), Elizabeth Loftus (原著), Katherine Ketcham (原著), 厳島 行雄 (翻訳)

■テキスト 司法・犯罪心理学/越智 啓太 (著, 編集), 桐生正幸 (著, 編集), 渡邉 和美 (著), 白川部 舞 (著), 中村 有紀子 (著), 大渕 憲一 (著), & 29 その他

■ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか/by クロード・スティール  (著), 北村英哉 (その他), 藤原朝子 (翻訳)

有料マガジン「Posted Articles」では過去の有料記事をまとめています。 このブログでは投稿日から1カ月が経つと記事を有料にしています。このマガジンを定期購読すると有料になる記事+毎月公開される有料記事を月額¥500で閲覧することが出来ます。

ここから先は

0字
月に有料記事を5本以上読むのであれば,このマガジンを購読したほうがお得です。

Posted Articles

¥500 / 月

有料マガジン「Posted Articles」では過去の有料記事をまとめています。 このブログでは無料記事と有料記事を2つの種類があります…

この記事が参加している募集

多様性を考える

LoLを熱く語る

Please support me if you like : )