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パドック

「好きだったら真面目になってよ!!!」

競馬予想の中には、パドック予想というものがある。
レースの前に馬がクルクル回っているアレ。
よくみんなのkeibaで細江純子さんがやっていますが
わたしは全然わかりません。
前走との比較やトモやツナギがどうとかで
気配が良いなんてわかる人は、すごいと思う。
わたしは、見た目じゃ全然わかりません。

仕事終わり。わたしは、友人にタリーズに呼ばれた。
先に来ていた友人は、涙目でココアを飲んでいる。
席に着くなりわたしに友人は言った。

「彼氏のことで相談があるんだけど…」
「どうしたの?」
「バンドやってる彼氏と付き合ってるんだけどさ…」
「うん」
「そろそろ真面目になって働いて欲しくて…」

初耳が過ぎる。前情報もなくいきなりコレは重たい。
友人は、ほんの1%くらい蒼井優に似ていて地味な子だ。
午前3時ころの3件目の居酒屋でベロベロになって見たら
蒼井優に見えなくもない感じ。
そんな子がよりにもよってバンドマンと付き合うなんて…

彼女の話をまとめると
なんかのライブで見たバンドが好きになる。
そのバンドの出待ちをするようになる。
でバンドのボーカルと付き合う。
なんじゃそれである。
わりと誰もが憧れるルートを経験して悩むなんて贅沢過ぎる。
嵐の結婚ニュースの時、リモートで出演してた彼女たちは
前世も来世も絶対に結婚出来なさそうなのに
悔しいとか、わたしだったらとか言ってたぞ。
なのに友人は好きなバンドのボーカルと付き合ってやがる。

「もうバンドやめて働いて欲しいの!安定して欲しいの!!」

だったらバンドのボーカルなんかと付き合うなよ。
音楽の世界は、わからないですがその世界で安定するって
すごい難しいんじゃないのかな。

「もうそろそろ彼氏が来るからまるちぃからも話して」

しばらくすると彼氏が来た。
パンクだった。たぶんパンク。うん、パンク。
わたしは、パンクって映画とかでしか見たことないけど
赤い髪を立てて、レザージャケット着て、
なんか大きいケース背負って来た。
フォークじゃない。ジャズでもない。たぶんパンク。
安定とは、1番距離があるところにいるパンクな彼氏。
とりあえず友人とパンクとわたしの3人で2人の今後の話をする。

「ねえ、住民税はどうするの?滞納しているじゃない」
「いつまでも国保じゃなくて社会保険に加入しないと…」

彼女はド正論をぶつけてくる。ただ相手がパンクだから…
パンクってギターをドーンと壊すんでしょ?
そんな奴が住民税払うわけないし、
社会保険に加入しているパンクなんて逆にどうしようもないとさえ思えて来た。
パンクがかわいそうになってくる。

「住民税なんていつか払うよ!」
「年金なんて俺らが年寄りになった時にもらえるかわからないんだから!
 国保でも関係ないよ!」

意外にパンクは知的であった。
見た目的には、うるせぇ!とか言ってコップをひっくり返しそうなのに。

「好きだったら真面目になってよ!!!」

タリーズに響く泣き叫ぶ彼女の声。
そこからは話し合いにならず解散することになった。
パンクがわたしに話しかけてきた。

「今日は巻き込んでしまいすいません。よかったら俺らの新しい曲なんで聞いて下さい」

パンクは、わたしにCDを渡してきた。
真っ白なCDに黒いペンで“LIFE IS DEATH”と書いてあった。
やっぱパンクだ。
そのCDを聞くことはなかったがたぶんパンクだ。

今日もわたしは、地方競馬をやっている。
netkeibaでライブで見ている。パドックも一応見ている。
パンクくらいわかりやすかったらパドック予想も楽なのにな…
そう思う3月の始まりの日だった。

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