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「自分以外の人間を信用するな」に込められた、やさしさ


#やさしさを感じた言葉


1年前に、初めて自分の下に、新入社員の部下がついた。
新卒入社が少ない会社で、自分の部署に新卒が入ったこと自体がなかったし、年齢も随分離れているので、最初はとても緊張した。

その彼が、この春、異動することになり、自分はきちんと彼に教育してあげられたか、心残りとともに

「他人を信用するな」と上司に言われた、自分の新入社員時代を思い出している。

初めての就職先は、念願だったウエディングプランナー


社会に出て、最初に就いた仕事は、ウエディングプランナーだった。
ドラマや映画の舞台にもなっていたし、華やかで、女性が憧れる職業の一つだったと思う。
私もご多分に漏れず、「新郎新婦の二人の思い出に残る、最高の結婚式をプロデュースするんだ!!」と息巻いていた。

しかし、一生に一度の大事な仕事を、二十歳そこそこの未経験の新人に担当させるわけがなく、最初は受付を担当しながら、結婚式のイロハを教えてもらう日々が続いた。

数か月間の研修を経て、やっとプランナーとして、ひとり立ちできたが、現実はそう甘くなく、結婚式やウエディングフェアがあれば、始発から終電まで働くこともあり、なかなか大変な毎日だった。

何より大変だったのは、「ミスが絶対に許されない」仕事な上、非常にデリケートかつ繊細さが求められること。
もしも、当日、依頼したはずのカメラマンが来なかったら、とんでもないことになるし、新郎新婦の人生に関わるので、どんなことも間違えられない。

ある時は、式次第に印刷された来賓の名前が間違っていたことが、式当日、ゲストが来てから判明。
急いで印刷をやり直し、結婚式の最中にゲスト全員の式次第を、スタッフ総出で差し替えるなんてこともあった。

全てのミスは、自分にも責任がある。


発注は、FAXで注文書を取引先や関連部署へ送って、結婚式が近くなったら、電話で確認するダブルチェックの方法を取っていた。
シフト制の勤務だったので、電話での確認は、その日に勤務している人が行っていた。

料理や装花、衣装、美容など、すべての発注物が同様だったが、ある時、私がFAXで依頼した内容が、伝わっていないことが判明した。

未熟な私は、「自分は間違いなく、FAXを送った。私のミスではなく、相手の確認不足だ」ということを強く主張した。

すると、上司に、「大事な内容は、必ず、自分で相手に直接伝えろ。
電話だけでなく必要なら会いに行け。伝わっていないのは、自分のせいだ」
と、こっぴどく叱られた。

そして、「自分以外、誰のことも信用するな。
もし、ミスが起きたら、すべて担当である自分の責任になる
」と言われた。

全ての責任を自分が取らなければいけないということは、20代前半だった私にとって、非常に重たい言葉だった。

ただ、いくら「発注書を送った」と言っても、頼んだ物が届かなければ、それは発注者である自分の責任であり、新郎新婦に対して、言い訳できるわけもなく、自分の心に刻み込まれる言葉となった。


また、ある時は、私が担当していた新婦の母親から、
「親族控室でのスタッフの対応が悪い。親族に対して”早く出ていけ”と言わんばかりの対応だった」と、強いクレームを受けた。

現場スタッフの教育は、私の管轄ではなかったけれど、自分が担当の式のクレームなので、上司と菓子折りを持って、謝りに行くことになった。

その時には、「自分のせいじゃないと思って、他人のせいにしたら、そこで成長が止まってしまう。どんなことでも、自分に何か出来たはず、と振り返ってほしい」と言われたこともあった。

確かに、後から振り返ると、自分に全く非がないミスはほとんどなく、
「自分もちゃんと確認していれば」「アテンションしていたら防げていたかも」と思うことが多い。


やさしい言葉だけが、優しさではないかもしれない


当時の私は、今よりもっと生意気で、若さゆえに「自分には何でも出来る」と思っていた。周りも大変だったであろう、と今は大変反省している。
そんな私にも匙を投げず、社会人としての基礎を、厳しくも、しっかり教えてくれた、当時の上司には本当に感謝している。

その職場を退職して、10数年、別の仕事をしているけれど、教えは今でも私の中にしっかり息づいている。
最後は、自分の責任」と思って主体的に仕事をすることで、キャリアを積んで、年収も随分上げることができた。

部下に嫌われたくないなら、注意したり、叱ったりせず、やり過ごすこともできるし、厳しいことを伝えるのは、自分の心にも代償を受ける。
でも、初めて社会に出て教えてもらったことは、その後の人生を形作るのではないかなと、自分の経験から思う。


部下だった彼の異動とともに、私も、この春、転職することになったので、彼とはもう会うことはないかもしれない。

未熟な上司ながら、私が伝えたことが、ほんの少しでも、今後の彼の人生の役に立てたらいいな、と思う。


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