【連載小説⑪‐1】 春に成る/サンドイッチ
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サンドイッチ(1)
「なんかね、今日、敬が変なんだよね」
こっそり話し掛けると流果も小声で返す。
「変? 何かあった?」
「何してても上の空っていうか……さり気なく聞いてみたんだけど、話してもらえなかったんだよね。だから、流果になら話してくれるかなって」
「うーん、分からないけど、僕からも聞いてみるね」
店内には、まだお客さんは流果だけ。空気を変えるように、パチンと手を叩いた。
「敬、流果、前に言ってた軽食の試作品、作って来たから食べてくれない?」
「へ〜、軽食って、何作って来たの?」
「最初会った時に、酔いにくくするには、お腹に何か入れておいた方が良いって教えてくれたでしょ? だから、小腹を満たせるサンドイッチ作ってみたよ。女性にもウケるように、形も可愛くしてみたんだけど……」
冷蔵庫に入れている、サンドイッチを出そうと、取っ手を握った時、高い音が何かが割れた事を知らせた。
「ちょっと、敬! 大丈夫?」
「ああ……悪い」
呆然と割れたグラスを見つめた後、片付け始めるが、その動きは敬らしくない。
「敬がグラス割るなんて、初めてじゃない? 本当に大丈夫?」
「そうなの? もう片付けはやるから、帰って休んだら?」
「……ああ、そうだな……悪いけど、店、しばらく休みにする」
突然、言い渡された休業宣言の理由を聞く事もできず、受け入れられない私と流果は、翌日、ダメ元で昼の『ベル』へ来店し、マスターに事情を説明した。
「そうですか、敬が……」
「はい、もしかしたら、敬に何かあったんじゃないかって、流果も私も心配で」
今日もゆったりとジャズが奏でられる店内には、幸い他のお客さんはおらず、ゆっくりと話ができそうだった。マスターは、伏し目がちにしていた目を私と流果に向けた。何か知っているんだ!
「きっと……昨日、病院で、私が癌である事が発覚して、余命宣告されてしまったのが、原因だと思います」
空気がピンと張り詰めた。
え? 何?
「え…? マスターが? え?」
「はい、体の不調は、以前からあったのですが、大した事ではないと、病院へ行くのが遅くなってしまいまして……昨日、もう手術もできない程、進んでしまっていると……」
「いや……そんなの、嘘。あの、お医者さんが何か間違えちゃったんじゃないですか? だって、そんなはず……」
向けられたマスターの悲しそうな笑顔が、全てを物語っていた。
そこから、私の視界から全ての色が消え、何の味もしなくなってしまった。
※「サンドイッチ」が途中である為、絵は次回掲載します。
※「サンドイッチ」は絵が3枚あります。
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※見出し画像は、有様の画像です。素敵な画像を使わせていただき、ありがとうございました。
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