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知らない会社の戦略なんて誰も知りたいと思わない!知ってもらってなんぼの自社評価


四半期に一度はきちんと決算短信を出してるし、年に二回は決算説明会もしている、問い合わせがあればきちんと回答もしている
売上げや利益が大きく増えることはないけど、業績は安定している
中期計画も開示しているし、目先の方針も説明している
配当も他社並みには出しているのに、株価が上がらない
上がらないどころか、PBR(株価/一株あたり純資産)は1倍を超えない
こんな悩みを持つ上場企業は少なくありません
ていうか、おそらく、全上場企業の半分くらいがそうなんだと思います

※2023年8月22日現在 PBR1倍以下の企業は1700社 東証に上場する企業の実に44%がPBR1倍割れ企業

「経過措置」が終わる!上場廃止になっちゃうよ

2022年4月に東証の市場区分の変更が行われ、一部、二部、マザーズ、JASDAQの4市場が、プライム、スタンダード、グロースの三市場に変更されました
その際、移行を円滑に進めるために、新しい区分の上場基準を満たしていなくても暫定的に上場を認める「経過措置」が認められましたが、それが2025年には終わることとなり、それまでに基準を満たせなければ監理・整理銘柄に指定され上場廃止になります
経過措置を適用された企業は、全上場企業の14%の500社以上になります

プライム市場の上場維持基準に達しない企業の多くが引っかかっているのが、流通株式時価総額という項目で、株価×発行済み株数×流通株比率が100億円を超えないと、上場維持基準を満たしません
発行済み株数は増やせますが、株数を増やすと株価が下がるので意味がありません
流通株比率も増やす方法はありますが、大株主の保有している株を売却するなど、株主構成が変わるので、むやみにできません
そうなると株価を上げることが重要になるわけですが、すぐに株価を上げられるくらいなら、上場維持基準に悩むことはありません
経過措置適用企業の多くは絶体絶命です

救いの神!スタンダード市場への移行

東証は、救済措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会を設けました
8月14日時点で、94社がスタンダード市場への移行を決議しています
経過措置の終了時期が明確になったことで、期限までに上場維持基準を達成できない、または、基準に適合しても安定的・継続的に充足する状態が保てない可能性がある企業が、上場廃止を懸念したようです
いずれにせよ、プライム上場企業の経過措置適用企業のかなりの割合の企業がスタンダード市場へ移行することで、上場企業というブランドは維持できる見込みです
この動きは期限である9月末に向けてさらに増えると思います

そもそも上場していていいことなんかあるの

上場のメリットというと、株式市場から資金調達できるとか、信用力が高まり、銀行借入(デットファイナンス)の幅が広がるとか、企業の知名度や信用力の向上が期待できる とか、社内管理体制が強化されるとか、優秀な人材を確保しやすくなる なんてことが言われます
そりゃ、上場しているほうがしていないよりはいいとは思いますが、そのためにかかるコストは、監査費用や取引所に支払う上場費用、信託銀行などに支払う証券代行費用はもちろん、会計報告やIRに係る人件費や内部統制などの費用を含めれば、年間1億円近くかかります
1億円かけて元が取れるような企業がどれほどあるでしょうか
上場時以外で、上場後に資金調達している企業はグロース市場では15%に満たない状況ですし、知名度を高めるなら同じ金額をPRコストに回した方が有名になれると思います
社内管理体制に至っては、企業のやる気次第です
となると、上場していいことは、自社の株式の換金性が高くなるという意味で、創業者一族の相続対策ということの方が大きいのかもしれません

それでも上場していたい

とはいえ、一度上場すると、取引先やお客様、社員の手前、上場廃止の決断はなかなかできません
上場廃止となると、今流通している自社株式を買い戻すか、誰かに買ってもらう必要があります。
買い戻すには、相応の資金が必要ですし、買ってもらうとなると、我が子のように愛しい会社を手放すことになります
だったら、頑張って上場を維持したいと思うのは当然の成り行きだと思います
ただし、上場企業はオーナーや経営者の論理だけでは成り立ちません
株主が納得する経営を行わないまま上場を維持し続けることは相当難しい時代になりました
株主にNoを突きつけられれば、オーナーと言えどもその会社のボードに残ることは極めて難しい
ガバナンスが厳しく問われる現代の上場企業は、オーナーや経営者の思い通りにはなりません
PBR1倍を割るような状態の企業が、それでも上場を維持したいならば、経営を刷新する必要があります

まずは、増配、自社株買い

株価を上げる手立てとして、配当を増やして配当利回りを高めることや、自社株買いをして資本を減らすことで、株価を上げることができます
ただし、増配や自社株買いの分配可能額は法令で決められており、無尽蔵ではありません
企業の財務内容にもよりますが、何回も使える手ではありません
それに、上場維持基準を守るということは、一度っきりのことではなく、常に基準を維持しなければならず、一過性の方法で乗り切れるほど甘いものではありません

会社を買っちゃえ!(売っちゃえ!)時価総額を上げるための奥の手”M&A”

時価総額を上げるのに、一番手っ取り早いのは、他社を買う、あるいは他社に買われることです(合併を含む)
50億の会社が50億の会社と一緒になれば、単純に100億の会社になることは可能です
小さい会社のまま、株価をどうやって上げようかと考えるより、時価総額が上場基準を超える程度になるようなM&Aをすればよいだけです

投資家や東証は、小さい会社が上場企業である必要性を感じていないわけですから、規模を大きくするような手立ては好まれこそすれ、嫌がられることは少ないはずです
とはいえ、すぐに相手が見つかるかどうかわかりませんし、他の会社と一緒になるのはちょっとという会社は少なくありません
株価は上げたい(時価総額は上げたい)、M&Aは嫌だというなら、残る方法は一つしかありません

結局、期待収益率を高め、資本効率を上げるしかない

ならどうすりゃいいんだっていうことになりますが、残念ながら、これをやれば株価が上がるといった決め手はありません
原理原則に従って、期待収益を高め、資本効率を上げるしかありません
PBR=PER×ROEという式が成り立ちます
つまり、PER(株価収益率=株価/一株利益)を上げるかROE(純資産利益率=利益/純資産)を高めることが株価を上げることになります

何をするかというと、将来の企業価値が上がると共感してもらえるような、ビジョンや戦略を打ち出すしかありません
急に利益が上がらないとしても、将来、確実に収益性が高まるという絵を描く必要があります
それによって、PERを大きくし、株価を上げるということです

すぐれたビジョンや戦略は株価を上げるか

ここまでの流れで、多くの経営者(コンサルタントも含め)は、素晴らしいビジョンを打ち出そう、素晴らしい戦略をつくろうとなるわけです
これで株価は上がるぞと、優秀な社員を集め社内にプロジェクトチームをつくり、大金をはたいてコンサルタントに戦略の策定を頼みます
これ自体は、悪いことではありません
むしろ、やるべきことです

しかし、それで株価が上がるでしょうか?否です
どんなに良いビジョンや戦略をつくったとしても、そのビジョンや戦略を知ってもらわなければ意味がありません
知らない会社のホームページに行って、その会社のビジョンや戦略を見る人はいません
それも野心的につくられたビジョンや戦略は、何十ページにもわたる大作で、読む側にとっては迷惑な話です
結局、興味もない会社のビジョンや戦略は読まれることはなく、株価が上がることもありません

まずは会社を知ってもらおう!すべてはそこから始まる

こういう相談をされた時、私は、まずは会社の名前を憶えてもらいましょう、名前を知ってもらったら何をしている会社かを知ってもらいましょう。
名前も知らない会社の戦略なんて誰も興味ありません
なんていう話をします。
会社名を連呼するだけのCMを流す会社がありますが、ある意味理に適っています
知ってもらうことの意味はそれほど大きいからです

はじめは,訝し気な顔をしますが、合理的に考えれば、多くの経営者は理解してくれます
知らない会社の株なんて買うわけありません
素晴らしい戦略を持っていても、それ自体知られていないために、株式市場では全く評価されていないなんてことはよくある話です

製品やサービスを知ってもらわなければ、誰も買う人はいないということは当然わかっていて、そのための宣伝やPRは一所懸命頑張るのに、株価を上げるために、そういう努力をする企業は多くありません
特に、PBR1倍割れの企業や上場維持を考える企業の多くは、他の会社と同じようなIR活動しかしていないと思います

コーポレートPRが新しいIR活動の波になる

経営者もコンサルタントも、戦略が大事という考えに染まっていて頭が固いのが実情です
そんなんだから、素晴らしいビジョンを有しているのに、株式市場でなかなか評価されないんです
「知る人ぞ知る」なんて考えは今すぐ捨てるべきです
自然に知ってもらえるようになるには時間がかかりすぎますし、それが評価につながるにはさらに時間がかかります
情報が簡単に流通する時代、インターネットやSNSなどを駆使すれば、知ってもらうことは昔に比べて容易になりました

機関投資家やアナリストのフォローが受けにくい、中小型企業は、かっこつけてないで、名前を売ることに集中した方が、企業価値が上がると思います。それが、中小型企業の新しいIR活動の波になるはずです

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