『満月の夜のドンドラゴン』 作/森下オーク

 むかしむかし、あるところに、とても不思議な街がありました。その街は、満月の夜になると、「ドンドラゴーン!ドンドラゴーン!」と、とても大きな唸り声が、街中に響き渡るのです。

 街の住人は、怖くてブルブル。怪獣ドンドラゴンが、家も街も破壊してしまうと、不安で朝まで眠れないのです。だけれども、不思議なことに、だれも怪獣ドンドラゴンの姿を見たものはいません。

 そんなドンドラゴンの唸り声が響き渡る中、靴屋の兄妹が、2階の窓から満月を見つめていました。

「お月様が困っている。“コッ”って、顔してる」妹のミウが言いました。
「ドンドラゴンは、お月様が怖いのかもしれないね」兄のコウが言いました。

 二人は、次の満月の日に、ドンドラゴンを探しに行くことにしました。
 二人は、朝から街のあちこちを行ったり来たり、浜辺のほうまで歩いたり、林の中を歩いたり。だけれども、ドンドラゴンはどこにもいません。夕暮れ時、二人は街が見渡せる丘の上にのぼりました。もう向かいの海には、白い満月が浮かび上がっていました。風がビューっと、吹きます。そんななかで、二人は小さな声を聞きました。

 「ドンドラゴーン。ドンドラゴーン」
 風にまぎれ、とても小さな声だけれど、二人は確かに聞きました。二人は顔を見合わせ、手をつないで、声の聞こえるほうへと歩きました。すると、藪の中で、小さな緑色の背中が見えました。ブルブルと、震えています。

「あなたは、ドンドラゴン?」妹のミウがたずねました。
「お月様が怖いの?」兄のコウがたずねました。

 ドンドラゴンは、ゆっくりと振り返ると、「ドンドラゴーン、ドンドラゴーン」と、小さな声で鳴きました。

「今夜は、わたしの家においでよ!」妹のミウが言いました。
「一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入ろうよ!」兄のコウが言いました。

 そうして、3人は手をつないで、靴屋のおうちへ帰りました。靴屋のおうちでは、お父さんと、お母さんが、最初はとてもびっくりしましたが、さっそくたくさんのご馳走でもてなしてくれました。
 3人は、お風呂も一緒に入って、ベットで朝まで眠りました。その夜は、あの恐ろしい「ドンドラゴーン」の唸り声もきこえず、街の人たちも不思議に思いながらも、朝までゆっくり眠りました。

 そして、次の満月の日、たくさんの子供たちが、靴屋の兄妹の家に遊びに来ました。もちろん、その真ん中で、ドンドラゴンが楽しそうに遊んでいました。

「今度は、僕の家に遊びに来てよ!」子どもたちは、口々にそう言いました。ドンドラゴンは、とても楽しそうです。そして、次の満月の日にも、その次の満月の日にも、子どもたちは怪獣ドンドラゴンが来るのを、楽しみにしていました。

 今でもその街では、満月の夜になると、「ドンドラゴーン、ドンドラゴーン!」「遊びにおいでよ、ドンドラゴ―ン!」と、子どもたちの大きな声が響くのでした。

(おしまい)

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