「ねえ、読書中悪いけど散歩へ行こう」 「本、まだ途中なんだけど」 「うん」 僕がつけるのは、あきらめのため息だけ 肩を並べて歩く 海と空を見渡せる草原 草たちが緑豊かになびいている 僕が持っているのは読めるはずのない本だけ 「ねえ、気持ちがいいね」 「そうだね」 「ここはいいところだったね」 「そうだね」 「君はいい人だったよ」 「そうかな」 「私はどうだったかな」 僕が思考するのは 君にイヤな思いはさせたくない それだけ いや、それを言葉にする余裕も力も持っていない
「酷暑」 太陽が腰をおろして言った 「暑いな」
必然 どきどきするね 緊張するよね 周囲も自分自身も ゴールを描いてしまっている その後のスピーチさえも 詳しく描くほど 身体をとり囲む密度が苦しくなる たどり着こうね よし、冒険だ 当然 どきどきする のは悪いことじゃないよ 疑えるということ わからないということ 手に入れたのはすごいことだよ 皆が皆できるわけじゃない 世界は広いよ 自身の当り前は隣の人にも当たり前? こわいね すでに冒険の真っ只中ってわけだ 然るに 皆、どこをとっても冒険だ さあ、行こう
「漂流」 過ちに抗って行くのなら どこへ 行こう
「ねえ、似顔絵描いていい?」 数十年ぶりに会った友が言った 彼女は酔っていたから こんなこと言った 私は酔っていたから 了解した そう思うことにしよう 「あのときからよく絵描いてたもんね」 「まあね。実はさ、あんたの顔、描いてみたかったんだ」 「なんで?」 「なんでだろう?」 「じゃあもう少し横向いて あと表情は普通な感じで」 へえ描きだすと無言なんだ そういう人なんだ えんぴつが紙に触れる音がする すー、すーと すー、すーと 私が描かれていく 私は生まれて
「On my own way」 最期に何か言い残すことはありますか? 残す? ふん!言うことなんてないね 残さず全て持っていくさ
音がない世界ってどんなだろう? それは真空 きっと僕もじゃま者 それは勘違い 帰って耳そうじ それとも耳鼻科? それは逃避 嘘だ嘘だ もうなんにも聞きたくない それは未知 いいかい。顔の 両端についているのが耳 僕の声きこえている? ああ、声っていうのはね それは 「音がない世界」 と君が言った世界 ちゃんと きこえているよ
「些細なこと」 重力に口づけを