海人

青空文庫の小説や村上春樹さんの小説について書いています。たまに映画や歴史、美術館の話も…

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青空文庫の小説や村上春樹さんの小説について書いています。たまに映画や歴史、美術館の話も。週1〜2回投稿。

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記事一覧

固定された記事

村上春樹『街とその不確かな壁』を読む 海外文学と音楽 プレイリスト付き 前篇

 普段は『村上春樹の短編を読む』というタイトルで、村上さんの短編に登場する海外文学や音楽について書いていますが、今回は村上さんの新作『街とその不確かな壁』に登場…

海人
1年前
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【創作】 その名にちなんで #シロクマ文芸部

 金魚鉢には、赤い金魚が一匹泳いでいる。春休みに母方の祖父母の家に遊びに行った時に、お祭りですくった金魚だ。祖父母の家に行くと精神年齢が下がり、子どもっぽいこと…

海人
2日前
48

文学フリマに参加して

 文学フリマ東京に初参加しました。販売側だけど、自分の本を売っているわけではない(ただの手伝い)というあまりないポジションだと思うので、そこから見えた感想を残し…

海人
6日前
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【創作】白い靴の娘 #シロクマ文芸部

 白い靴を脱ぎ捨てて、本宮朱莉はそれを男に投げた。 「ストーカー、どっか行け」  靴は男の肩にぶつかり、どこかに消えた。  なんか間の悪い時に、外に出たな。  カ…

海人
9日前
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文学フリマで気になる本 その2

 これまでにも何度かお伝えしましたが、5月19日(日曜日)開催の文学フリマ東京に吉穂堂の販売員として参加します。自分の本を売るわけではないので、「吉穂さん、お一人…

海人
13日前
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【創作】ある日のテネシー・ワルツ #シロクマ文芸部

 風薫る五月と思える日は、最近の東京にはあまりない。春が終わるとすぐ、湿気混じりの蒸し暑い五月になってしまう。だけど、今夜は、爽やかな風が吹き、どこかで花咲く藤…

海人
2週間前
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AIに小説の批評をお願いしたら

 GoogleのAI、Geminiにnoteに投稿した掌編小説の批評をしてもらいました。今回の記事は、自分でも創作をなさる方の参考になるかなと思って書きました。創作をなさらない方…

海人
2週間前
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2024年4月読書記録 川端、太宰、ドストエフスキー

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(東京創元社・酒寄進一訳)  ドイツミステリーの翻訳者として有名な酒寄進一さんが編集した短編集です。日常に忍び…

海人
2週間前
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文学フリマで気になる本

来たる5月19日(日曜日)、東京流通センターにて文学フリマ東京38が開催されます。 以前につぶやきましたが、当日は、noteで知り合った吉穂みらいさん(みらっちさん)の…

海人
3週間前
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【創作】Last of Tanu #シロクマ文芸部

「子どもの日には、どこの柏餅を食べるの?」  居間のソファーに座った、たぬが訊く。たぬってさ。もう少しマシな名前をつけてくれればいいのに、物心ついた時には、たぬ…

海人
3週間前
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『大吉原展』

 3月下旬に藝大美術館で開催中の『大吉原展』に行きました。  この特別展は開催前にXで大炎上したんですね。吉原遊廓は江戸時代の幕府公認遊廓であり、遊女たちは金と…

海人
3週間前
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【創作】四月は残酷な月 #シロクマ文芸部

春の夢は、はかない。そう思うのは、春が桜の季節だからだろう。咲き誇ったかと思うと、数日で散ってしまう花。俺の恋も……  酔っ払って、バイト先の雑記帳にこんな文章…

海人
1か月前
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【雑談】仕事と読書

 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本が売れているそうだ。多分、思い当たる人が多いのだろう。  そんな人もいるのだなと少し驚いた。私には当てはまらな…

海人
1か月前
82

【ミニ旅行記】色とりどりの花たち #シロクマ文芸部

 花吹雪が舞う中、列車に乗りました。ひたち海浜公園内を走る列車、シーサイドトレインでの話です。ネモフィラを見に行ったのですが、山桜がまだ残っていたので、強風にあ…

海人
1か月前
62

太宰治『右大臣実朝』 滅びを予感した悲劇の人

 『右大臣実朝』は太宰治の長編小説です。実朝って、地味な人ですよね。ネットの感想を見ても、『鎌倉殿の13人』関連で読んだという方がほとんど。  このドラマを観てい…

海人
1か月前
48

理想の異性 #シロクマ文芸部

「風車の弥七って誰?」  学生食堂で鶴野さんと同じテーブルになった時、そう訊ねてみた。鶴野さんとは、語学のクラスが一緒だった。週五時間だけのクラスだけど、顔合わ…

海人
1か月前
44
固定された記事

村上春樹『街とその不確かな壁』を読む 海外文学と音楽 プレイリスト付き 前篇

 普段は『村上春樹の短編を読む』というタイトルで、村上さんの短編に登場する海外文学や音楽について書いていますが、今回は村上さんの新作『街とその不確かな壁』に登場する海外文学や音楽について取り上げます。ストーリーなどには極力触れないようにするつもりです。 フロベール『感情教育』  主人公が読んでいる小説です。  フロベールは19世紀フランスの作家で、無駄を排した緻密な文体で知られます(日本語ではよくわからないのですが、単語一つたりとも削るところがない作家だそうです)。『感情

【創作】 その名にちなんで #シロクマ文芸部

 金魚鉢には、赤い金魚が一匹泳いでいる。春休みに母方の祖父母の家に遊びに行った時に、お祭りですくった金魚だ。祖父母の家に行くと精神年齢が下がり、子どもっぽいことに手を染めてしまう。  子ども向けの屋台だったから、中学生のぼくがやると、面白いほどすくえた。幸い、三匹しかもらえない。全部もらえたら、庭に池を掘る羽目になっただろう。  三匹もらって、漱石、一葉、龍之介と名付けた。春休みには、ぼくの中で文豪ブームがきていたのだ。漱石と龍之介はすぐに死んでしまい、現実の世界では最も短命

文学フリマに参加して

 文学フリマ東京に初参加しました。販売側だけど、自分の本を売っているわけではない(ただの手伝い)というあまりないポジションだと思うので、そこから見えた感想を残しておきます。  まず、販売者として文学フリマに向いている人を挙げてみます。 置かれた状況を楽しめる人。運営は正直ぐちゃぐちゃなので…。なんでや? と思い出したらキリがない。それをケセラセラで流せる人におすすめです。 事前に情報発信できる人。私がいたブースは広い通路沿いという目につきやすい場所だったのですが、それで

【創作】白い靴の娘 #シロクマ文芸部

 白い靴を脱ぎ捨てて、本宮朱莉はそれを男に投げた。 「ストーカー、どっか行け」  靴は男の肩にぶつかり、どこかに消えた。  なんか間の悪い時に、外に出たな。  カフェ〈砂時計〉でのバイトの休憩時間。裏口から外に出て、綺麗な空気を吸おうと思ったらこれだ。  あの男は、誰だ。ストーカーとは聞き捨てならないが、乱暴な奴なら、かかわりたくない。  いや、別に朱莉がストーカー被害に遭ってもいいというわけじゃないけど。 「警察、呼ぼうか?」  無難な問いかけをした。 「どうする

文学フリマで気になる本 その2

 これまでにも何度かお伝えしましたが、5月19日(日曜日)開催の文学フリマ東京に吉穂堂の販売員として参加します。自分の本を売るわけではないので、「吉穂さん、お一人で大変だな」「すごいパワーだな(爪の垢もらって飲もうか)」などと呑気に構えていたのですが、ここにきてようやくエンジンがかかり、当日のイメトレも兼ねて、会場になる東京流通センターを下見してきました。  東京流通センターは、東京モノレールの流通センター駅にあります。私が住んでいる東京の東側(下町)からはかなり遠いイメー

【創作】ある日のテネシー・ワルツ #シロクマ文芸部

 風薫る五月と思える日は、最近の東京にはあまりない。春が終わるとすぐ、湿気混じりの蒸し暑い五月になってしまう。だけど、今夜は、爽やかな風が吹き、どこかで花咲く藤の香りさえ漂う気がする。  そんな心地良さに誘われて、アークヒルズで食事をした後、永田町まで歩くことにした。その途中、山王坂を過ぎたあたりで、初老の男性とすれ違った。ほろ酔い加減なのか、男性は英語の歌を低くハミングするように口ずさんでいた。 「さっきの曲、知ってる?」    しばらくして、娘の朱莉が訊ねた。曲名を知り

AIに小説の批評をお願いしたら

 GoogleのAI、Geminiにnoteに投稿した掌編小説の批評をしてもらいました。今回の記事は、自分でも創作をなさる方の参考になるかなと思って書きました。創作をなさらない方、AIの能力に興味のない方には退屈な記事になると思うので、無視して下さい。     *  GoogleのAIは、以前BIRDと呼ばれていた頃に、何度か利用しました。その時の印象では、明確な答えのある問いだと、かなり間違いがある反面、村上春樹さんの『街とその不確かな壁』の批評では、私の問いに答える形

2024年4月読書記録 川端、太宰、ドストエフスキー

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(東京創元社・酒寄進一訳)  ドイツミステリーの翻訳者として有名な酒寄進一さんが編集した短編集です。日常に忍び寄る不安や孤独、悲しみ。それらの感情が引き起こす出来事を淡々と描く物語が多いです。リアリズムのまま幕を閉じる話もあれば、薄い壁を越えて、非現実の世界に向かう話もあります。  村上春樹さんの短編には、女性が主人公の作品もいくつかありますが、それと似た雰囲気の作品がこの短編集にはいくつかありました。女性の不穏な気分が世界

文学フリマで気になる本

来たる5月19日(日曜日)、東京流通センターにて文学フリマ東京38が開催されます。 以前につぶやきましたが、当日は、noteで知り合った吉穂みらいさん(みらっちさん)のブース、吉穂堂で販売のお手伝いをします。吉穂さんとは、noteでコメントを交わすだけの間柄だったのですが、現実世界の大きなイベントでお手伝いができるとは。これもnoteのパワーのおかげです。お互いに長い文章を読むので、一緒にイベントをこなせる人かどうか等、人柄が透けて見える気がします。 吉穂堂で販売する本の

【創作】Last of Tanu #シロクマ文芸部

「子どもの日には、どこの柏餅を食べるの?」  居間のソファーに座った、たぬが訊く。たぬってさ。もう少しマシな名前をつけてくれればいいのに、物心ついた時には、たぬと呼ばれていた。どうせ、母さんが名付けたんだろう。母方のじいちゃんがUFOキャッチャーで獲ったぬいぐるみに。  託児所仲間の鎮雄はドナルドダックのぬいぐるみを持っていたからね。幼心にも、うちのたぬはしょぼいなと思ってた。思うというか、はっきり言ったんだけど、母さんに。ディズニーのぬいぐるみがほしいって。  今になって

『大吉原展』

 3月下旬に藝大美術館で開催中の『大吉原展』に行きました。  この特別展は開催前にXで大炎上したんですね。吉原遊廓は江戸時代の幕府公認遊廓であり、遊女たちは金と引き換えに身を売ることになります。前金を払い終われば自由になるとはいえ、吉原が人身売買により成り立つ場所だったのは間違いないでしょう。そんな場所なのに、『大吉原展』のHPでは「ファッションと芸術の発信地、あの素晴らしい吉原、今は消えてしまった吉原を懐かしむ」的な広報がなされたのです。確かに、一時期の吉原遊廓がファッシ

【創作】四月は残酷な月 #シロクマ文芸部

春の夢は、はかない。そう思うのは、春が桜の季節だからだろう。咲き誇ったかと思うと、数日で散ってしまう花。俺の恋も……  酔っ払って、バイト先の雑記帳にこんな文章を書き散らした。その後、下宿に戻り莫迦なことを書いたものだと恥ずかしくなった。明日は朝一で店に行って、あのページを破り取ろうと決めた。  俺がバイトをしている〈カフェ・砂時計〉は、夜には酒も飲める店だ。大学から近いので、もとはサークルの連中とよく利用していたのだが、賄い飯がつくという話に釣られて働き始めた。自分が客

【雑談】仕事と読書

 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本が売れているそうだ。多分、思い当たる人が多いのだろう。  そんな人もいるのだなと少し驚いた。私には当てはまらないので。それどころか、仕事が大変だった時期は最も本を読んだ時期でもあるからだ。  正直、本がなければ正気を保てなかったとすら思う。  とにかくブラック企業だった。一応正社員だったので給料はそんなに悪くなかったけど、拘束時間が長いし、仕事もハード。同じ営業所に配属された子は統合失調症を発症したし、鬱発症などは日常茶飯

【ミニ旅行記】色とりどりの花たち #シロクマ文芸部

 花吹雪が舞う中、列車に乗りました。ひたち海浜公園内を走る列車、シーサイドトレインでの話です。ネモフィラを見に行ったのですが、山桜がまだ残っていたので、強風にあおられてピンクの花びらが舞いました。  この前の日曜日には、水戸に桜のお花見に行き、「偕楽園は葉桜が多いけど、千波湖はまだ見頃だね」と言っていたのに、水曜日にはネモフィラのお花見。一気に季節が進んだのですね。  ネモフィラの群生地の写真を見て、綺麗は綺麗だけど、ちょっと人工的な気がしていました。SF映画に出てきそう

太宰治『右大臣実朝』 滅びを予感した悲劇の人

 『右大臣実朝』は太宰治の長編小説です。実朝って、地味な人ですよね。ネットの感想を見ても、『鎌倉殿の13人』関連で読んだという方がほとんど。  このドラマを観ていないので、ウィキをちらっと眺めたところ、三谷さんの解釈は、「現代の視点では、もうこれしかないだろう」というものでした。文書には残っていないので、歴史学的に「実朝には同性愛的傾向があった」とは書けないと思いますが、まだ二十代半ばなのに「実朝には後継ぎができない」前提で話が進んでいるわけですから。同性愛ではなくても、女

理想の異性 #シロクマ文芸部

「風車の弥七って誰?」  学生食堂で鶴野さんと同じテーブルになった時、そう訊ねてみた。鶴野さんとは、語学のクラスが一緒だった。週五時間だけのクラスだけど、顔合わせの食事会をやったり、名簿を作ったりで、クラスメイトの顔と名前はほぼ一致していた。  クラス名簿には、名前や電話番号以外にもいくつか記入欄があった。「理想の異性は?」という欄があったのを覚えているのは、鶴野さんのおかげだ。「風車の弥七」という文字が今も脳裏に焼き付いている。他の子が何と書いたかは全く記憶にないのに。