エイリアン（尼寺に着く）　　川柳101句

でぶ専がアビイ・ロードを製図する

ホルモンと星新一をきりはなす

昆虫図神奈川県が溶けるまで

拝み屋のさとうじょう油をなめかえす

ガンジーに蟹味噌という神の御名

べつじんににがうりわたす雨のなか

日暮里のひろい野原に鰻小屋

ゲーデルがゲーデルに貼るねこの耳

コロッケを逆にかぞえたことがない

木星にみんなひとつの偽薬のむ

模型屋がリングワールドひしめいて

マタマタに言葉と物のはりさける

絵画部のゼブラゾーンに黒蜥蜴

鳴滝が筆算少女へとおちる

水力がうしなわれゆく贋の塾

函数をテルミン姉妹つたえあう

ペンギンが能動態の咳をする

水あめと人間原理くみあわせ

歯車のあるだけならぶ国技館

雨のなかヨブのめんこを叩きつけ

仲井戸が歌詞にてふれるポートピア

髙橋が這いでてこない天文部

髙橋にハイデッガーのながい雨

オレンジの線描おわる修道女

飯店にかかれなかったよげんの書

五月きて炎のなかのボンカレー

かなでこに精神病を病んでより

中曽根の句集を買ってくる火宅

延彦のスカイラインに二枚貝

この世からときどき消えるあきる野市

ふるさとに完全体の河馬消えて

チルチルの気象衛星おつミチル

鉛屋にあらんかぎりの神宮寺

憂国の構造主義者ペンチ折る

賭博者がすこしずつ剥ぐつけまつげ

カチンコを打って面堂終太郎

ア太郎のマイムマイムがまだつづく

てりかえす詩人の会のズーラシア

伊東家の名ふだがあまる核の春

酩酊の船に江川のＺＩＮＥめくる

いやしくも江東の図をかきなぐる

神死んでジョンとポールの有季無季

鶏皮がかなしむためにできている

賽振って病院坂のテレサ・テン

神獣をわさび農場からうばう

番号に牧羊神が腐りつつ

三河屋をミシェル・フーコーつけねらう

悪としてギアナ高地をわたす箸

鶴竜に似ていたひとの他慰行為

自由律俳人のもつ超ブザー

豚骨がおれるジーザス・クライスト

鏡消えただそれだけの世界消え

豚足をめぐって日ユ同祖論

This is a pen を書かれる千社札

原子力発電にみる幸田文

レトリックこの世をいかる宇宙皇子

海抜がシンメトリーの兄とくる

猿の壺もしくはひとを憎む雨

伯父さんの絵文字消されるジェイン・エア

他我あまたシンガポールの海びらき

コロ助の時代に沿った暗号化

ガンダムに引用される卵酒

性器みて文体論を書きかえる

落柿舎のきゅうり畑にアトムの子

夏近し潜在意識にも奈良市

光圀がさいごにいたる鯛の國

ゴールデンカレーに摺れり死の舞踏

梅沢を精妙に描くえかきうた

成田屋にろばをもちこむ脳科学

かいじゅうがいないところのスケーター

実名の父につながる植樹祭

火焔樹をコートの外へはこびだす

山国に男性性器たれさがる

ゴロマキの防風林に春終わる

缶づめを時代精神ごとに買う

貧民の小田急線に棒を立て

技師の子が電気ショックをうけて初夏

正平と元子の時計浜にうめ

かんけいに全智をつかう美味しんぼ

リツイート不可能性の時代より

ねむの木にハンカチしばる工場主

迷宮の石段がない泡坂家

回文がつくれなかった日のもぐさ

砂おちて時実新子室に時

ひが大にまっさき暮れる脳学部

煮こぼれるフラッシュマンの時の海

完全な真空にかく野球帽

マチルダの帽子あつめがすぐ終わる

ドキュメントそのもの揺らぐ尾張藩

ベーゴマをあやつりて尼寺に着く

読書熱のこったものがたぶん瓶

第七の反官界を直進す

季語界に宮沢りえをおきわすれ

萩本の本屋をうめる砂の本

人麻呂が解脱してゆくようかん屋

棚田から魯迅の指紋あふれだす

打楽器でデヴィ・スカルノのふりをする

人の世にバウムクーヘン買いかえる

溜池のまわりをまわるフランソワ

棒ずしを売ってとなりの宇宙人

夜ちかし現象界に牛つなぐ

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