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SF童話『太陽の種』

※トップ画像はtomoさんの作品です。いつもありがとうございます。


宇宙には、多くの神さまがいます。そのなかに、太陽の家にも、植木鉢を育てることが大好きな神さまがいました。

太陽の家には、地球鉢や水星鉢など、九つの鉢がありました。そのなかで、地球鉢だけが青々と美しく育っていたのです。 

地球鉢は、水溜まりのなかに、茶色い土が浮いていて、そこにさまざまな木や花がうえられているのです。

そして、白い雲がふわふわと、地球鉢のうえを漂っています。地球鉢には、さまざまな虫たちが住んでいます。人間虫や動物虫たちです。

火星鉢は、悪い虫たちが大喧嘩をしてしまい、どの虫も住めない鉢になり、神さまは面倒をみなくなっていました。金星はまだ育てはじめたばかりでしたから、まだ植物くらいしかいません。

ほかにも、輪っかのきれいな土星鉢。いちばん大きい、縞模様のきれいな木星鉢などの鉢が、空中をくるくるまわっています。

ほかの鉢も、それぞれに美しくはありましたが、神さまにとっては太陽鉢こそがいちばんのお気に入りで、いつも光輝く命のようだと、いつも自慢していたのです。

宇宙鉢で鉢の出来のよさを決めるコンクールでも、いちばんの賞をとったことがありました。神さまは毎日のように、太陽鉢のかがやく光が色あせないように、ときおり飛んでくる、隕石ゴミに当たってキズがつかないようにと、いつも気をつけているのです。

そしていつもうっとりと太陽鉢をながめていたのです。そんな日々のなか、いつのまにか、地球鉢が悪い虫たちでいっぱいになり、金属の殻に乗った虫たちが、家のまわりを飛び回るようになったのです。そのうえ緑色をしていた地球鉢が、汚い、ヘドロ色に変わってゆくようすをみて、とうとう神さまは怒ってしまいました。 

「なんじゃこいつらは、うるそうてしかたないわい。それになんじゃ、わたしの大切な鉢を汚しおって、ゆるさんぞ!」 

そう神さまが怒鳴ると、口からたくさんの水を吐きだして、地球鉢をすっかり洗い流してしまいました。すると悪い虫たちのほとんどがいなくなり、まえのように美しい鉢になっていったのです。しばらくは美しい鉢でいたのですが、時がたちますと、またもや悪い虫がどこからかわいてきて、地球鉢の緑を枯らせたり、壊したりの好き放題をはじめたのです。

神さまは優しい方でしたので、なんとかその鉢をもとのようにしたいと思ってあれこれかんがえていました。ところが、神さまの奥さんである女神さまがやってきていいました。 

「あなた、なにをぐずぐずしてるのよ。この地球鉢の臭いったらありゃしない。銀河系まで臭っているわよ。おとなりさんに、なにをいわれるかわかったもんじゃないわ」 

まるで子供を叱りつけるようにいわれて、神さまもしぶしぶ地球鉢を捨てることに決めました。女神さまの機嫌を悪くしたら、口をきいてくれなくなるだけでなく、いつまでもねちねちといわれるのが常でしたから。

神さまは口から火を吹いて、地球鉢をすっかり燃やしてしまいました。そのとき、地球鉢から逃げだしてきた虫たちが、いっせいに神さまの鼻や目に飛び込んできたのです。神さまは、身悶えしながら大きなくしゃみをひとつしました。するとすべての鉢がくしゃみの風にとばされて、どこか遠くへといってしまい、太陽鉢もない家のまわりは、すっかり暗くなってしまいました。 

神さまはすっかり元気をなくしてしまい、真っ暗闇のなか、目をとじて、頭を抱えてしまいました。しばらくすると、なにやら目のまえに柔らかい明かりが灯りました。 

神さまが恐る恐る目をあけると、神さまの息子のギンガ君が、ほのかに赤く輝く、小さな太陽の種を手のひらに乗せて、神さまにその種を微笑みながら差し出していました。

                (了)


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