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SFショートショート『リアルな日』

誰もが独りぼっちの元日だ。西暦2063年の今、私は六十一歳になっていた。しかし、医学と健康法が進歩して、肉体も見た目も三十代前半の若さをキープできていた。一部の国や地域以外の国々は、広大なドームのなかにあった。

私が二十四歳の頃に、太陽のフレアが世界を襲った。

その後各国がお互いに協力し、自然からの脅威から守るために、ドームのなかで都市作りがなされてきたのだ。

人との交流といえば、買い物もすべてインターネットでの購入で、リモートでお互いの姿をみながらのやりとりだった。

飲食店なども、店の従業員たちは、見た目では人間にみえるロボットばかりなのだ。

人口調整として、コンピュータによる受精システムにより、人口の増減ですら管理されていた。結婚制度も廃止され、恋愛もオンラインによる疑似恋愛ばかりになっていた。仕事も自宅でパソコンでの業務だ。仕事は元日から十日間休みだった。今は年賀状そのものがなくなくなり、新年のあいさつをすることもなくなっていた。 

私は自動調理器で、お雑煮を料理しようとキッチンに向かった。そのとき、玄関のあたりでコトンと音が聞こえた。

私は玄関にいき、ポストを覗いた。すると、今はもうみかけなくなっていた葉書がみえた。急いでその葉書をみると、何十年かぶりにみる自筆で、新年のあいさつが書かれていた。

年賀状そのものも手作りだが、切手は廃止されているので貼られていない。今はすべて、室内の空間に文字が浮かぶ交信方法だった。葉書の差出人の名前はなかった。だけど、見覚えのある筆跡だった。そう、二十一歳の頃に出会い、愛しあった文子の文字だと思った。栗色の髪の色をした、和風美人だった。

私は玄関のドアをあけ、

周囲を見まわした。どの家も小さなドーム型。VR映像の木々や花をみていると、どこからか文子の好きだったメロディが流れてきた。

そのメロディの聞こえてくる方向に目をやると、カタツムリのような形をした、水素で自動走行する車に乗っている女性が目にとまった。宇宙服のような現代風の服装をしている女性だ。その女性が文子ではないかと思い、私はその女性の乗る車に駆け寄った。やはり文子だった。文子は静かに車を降りて、私の手を握った。巻き貝のような髪型は微笑む文子によく似合っていた。
 

「久しぶりね。だけどおたがいにあんまり見た目はかわっていないのね」

「そうだね。それよりもどうしていたんだい? あの天変地異以来、まったく音信不通になって、ほんとうに心配していたよ」

文子は、少しうつむき、

「私、あの天災のショックで記憶も家もなにもかも無くなってしまったんだもの。でも、一ヶ月前に、突然停電したでしょう? そのときのショックですべてを思いだしたの。まわりがすっかり変わってしまっていても、記憶が無いせいで、かえって順応できていたみたい。でも、記憶を取り戻してからは、この味気ない世界がたまらなく寂しく感じられて、とても辛くなったの。それであなたのことをいろいろと調べて、会いに来たのよ」

と、心細さそうに言った。
私は文子をそっと、抱き寄せた。
 
「わかったよ。それにしても久しぶりに命のぬくもりを感じたよ。リアルっていいよね。どこか切なくて、そして暖かくて……」

            (了)



※ふたつの画像はAIの「お絵描きばりぐっとくん」の作品です。まさに物語によくあう絵を描いてもらえてうれしく思いました。

           

気にとめていただいてありがとうございます。 今後ともいろいろとサポートをお願いします。