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ショートショート『ボディガード』共作

ひょんなことから山中氏は、巨額の富を手に入れた。豪邸か、外車か、それとも絶世の美女か、と胸をふくらませたが、そんな派手なことをしたら金があるのがバレてしまい悪い奴らに狙われるのでは、と心配性の山中氏は恐れおののいた。考えたすえ、まずはボディガードを雇おうと思い至り、早速手配した。

「私がついている限り、なんの心配もございません」

ボディガードはたくましい胸板を誇張してみせた。なるほど、確かに強そうである。

だが次第に山中氏は不安になってきた。このボディガードがもし邪な気持ちを起こし、財産を奪おうとしたら――。人間など、ある日突然どう変わるかわからない。山中氏は考えたすえ、もう一人ボディガードを雇うことにした。

「私一人では物足りないと?」

ボディガード一号は明らかに不満そうであった。そんなことはない、君に楽をしてもらおうと思ってね、と山中氏は誤魔化した。二人のボディガードは、山中氏の思った通り競争心をあおられ、互いに良い関係を築きながら全力で職務に取り組んだ。

だが、やはり山中氏は不安だった。この二人が手を組んで自分を陥れようとしたら? 一人より二人の方がやりやすいに決まっているではないか。山中氏は悩んだすえ、またボディガードを雇うことにした。

山中氏はボディガード三号に耳打ちした。

「彼ら二人が結束して妙な事を企まないよう、さり気なく見張ってくれないか」

やれやれこれで安心だ。だが、次第に山中氏は困ってきた。どこで何をするのにも、でかい男が三人もゾロゾロついてくるのだからなんだかむさくるしい。山中氏はボディガードを一人に戻すことに決め、その為に新たなボディガードをまた一人雇った。

山中氏はボディガード四号に耳打ちした。

「彼らの中から最も優秀な人材を選んでくれないか。同業者の君ならよくわかるだろう」

しばらく経って四号は山中氏にこう報告した。

「みな甲乙つけがたい優れたボディガードですが、やはりこの私にはかなわない。という
ことでボディガードは私一人で十分です」

山中氏はまたしても悩んだ。こんな自信過剰な男はいまいち信用できない。それに、そんな男にかぎって心にスキがでるものだ。四号は即刻クビにされた。

ひとりのボディガードがクビにされたことを知ったボディガードたち三人は、密かに相談をはじめた。

「雇い主の男は俺たちを信頼していない。いつ解雇されるかわかったもんじゃない。疑心暗鬼なマフィアのボスが手下を殺すこともよく聞く話だ」

「いや、そこまではしないだろうが、信用できない雇い主であることは確かだな。どうだろう、三人でお金をだして、俺たちのボディガードを雇ったら?」

早速三人のボディガードは、自分たちのボディガードを手配した。

ある朝、目覚めた山中氏が寝室のドアを開けると、目の前に三人のボディガードと、彼らより頭ひとつぶんでかい見知らぬ外国人が立っていた。

目が合うとギロリと睨む。思わず後ずさる山中氏。

「だ、誰だ、そいつは」

「新しいボディガードです」

「雇ったおぼえはないぞ」

「あなたのボディガードではありません。私たち三人が雇った私たちのボディガードです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

混乱する山中氏。

「ということは、君たちはボディガードが必要なほど頼りないボディガードなのか?」

「いえいえ念のためですよ」

ボディガードたちはたがいに目配せをした。

山中氏の心は疑心暗鬼と恐怖感にかき乱された。彼らをクビにでもしたら、逆上されてなにをされるかわからない。三人に対する報酬ももったいない。あれこれと悩んだ末、ボディガードたちを毒入りのワインを飲ませて殺してしまうことにした。

ある夜、ボディガード全員に高級ワインをふるまった。

「いつもご苦労さま。さあ、いくらでも飲んでくれ」

ボディーガードたちは一気にワインを飲み干した。彼らは苦悶の表情で床を転げ回り続けている。壮絶な光景に気が動転した山中氏は、なんとか気持ちを落ち着けようと、つい目のまえにあった毒入りワインを一気に飲み干してしまった。

(了)

※トップ画像のクリエイターさんは、「Hiroshi Yoshida」さんです。
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