「ママがママで良かった…」ゲーセンで娘の信頼を勝ち取った女
何を隠そう、私はUFOキャッチャーが好き。
アームの開き具合を確認し、重心の位置を確かめ、横からもチェックして、GOボタンを押して…
このワクワク感が好きなのだ。
しかも兄妹揃って大好きで、私が高校生、兄が大学生の頃は軍資金を片手に一緒に都会のゲーセンまで出かけたこともある、頭のおかしな兄妹だった。
朝から年頃の子どもたちが仲良く出かける姿を微笑ましくおもった母は、こっそり軍資金をくれたりして。これまたちょっぴり頭のおかしな親だった。
UFOキャッチャーをして、飽きたらコインゲーム。時々ゲームセンターの主みたいなおじいちゃんが、「これ、使いきれへんから」と大量のコインをくれたりして。私たちも1日では使いきれず、お店に保管してもらったりして。そしてまた次の月に2人で電車に乗って出かけたりして。
なんやねん、この兄妹。
それから20年がたち、私たちも大人になった。就職して結婚し、それぞれ子どもを2人ずつ。
それでも私たち兄妹の関係は変わらない。あのころのままだ。
お盆休み、兄と子どもたち、私と子どもたちが実家に集まった。義姉と私の夫はそれぞれ仕事があったので、兄と私で子どもたちを連れて遊びに行くことにした。
そう、ゲーセンへ。
子どもがいても、特に変わらない。
兄は根っからの機械オタクで、私はそんな兄を軽蔑しながらも尊敬しているちょっぴりブラコンの妹だ。
兄と私が子どもたち4人を連れて、都会のゲーセンに繰り出すと聞いた母は、また笑いながら6人分の軍資金をくれた。デジャブか。
でも子どもたちは限界を知らない。
ちびっこギャングたちに使えるお金について説明し、それ以上は絶対にお金は出さないと伝えた。
そして、大人2人子ども4人で、いざ出陣。
子どもたちの大好きなキャラクターが並ぶ夢の国だった。でも、1回200円⁉️そんな高かったっけ⁉️小さなUFOキャッチャーも全部200円‼️
ここも物価高騰の影響が。
オタク気質のある兄と私の娘は、YouTubeでUFOキャッチャー攻略法を血眼で見てからの出陣。気合いが違う。
しかし世の中そんなに甘くない。
あっという間に軍資金を使い切り、コインゲームへ。
しかし、好きなポケモンのキャラのぬいぐるみをどうしても欲しい娘は、皆がコインゲームに行ったあと「ママ…わたし、サイフ持ってきてんねん」と耳打ちしてきた。
本気か。キミは本気なのか…!!
コインゲーム組は兄に任せ、私は娘とUFOキャッチャーへ。
娘は「2000円までなら使うことにする」と武士のような(知らんけど)覚悟を決めた顔でUFOキャッチャーの中の無邪気なポケモンを見つめる。
「あれ、綿の塊やで」
「家に持って帰るの大変やん」
「絶対いらんで」
そんな言葉が喉元まで出かけたけれど、本気の目をした彼女を前にグッとこらえた。
そしてチャリン…チャリン…と何度チャレンジしても、惜しいところで落ちてしまう。
そして2000円目。
弱い力のアームは、またしても無邪気に笑う巨大なポケモンを途中で落とした。
か弱すぎるやろ!!
好きな男の前でぶりっ子する女か!
昔なら泣いていたであろう娘は、うっすら涙をためた瞳で「もうええわ。もうあきらめるわ」と、宣言通り2000円でチャレンジを終了した。
しかし、だ。
私もUFOキャッチャー好きのはしくれ。
娘をここまでコケにされて、黙っているわけにはいかない!!
娘はお年玉の中から2000円も出したんや!!それなのに、それなのに手ぶらで帰らせるなんて、かわいそうすぎないか…!!!
あれほど「今日使えるお金は〇〇円ね」と説明したのに、あっさりと財布を出してしまった。他の子どもたちにも示しがつかないので「こっからはママがやるわ…」と、これまた武士(知らんけど)のような顔つきで追加のお金を入れた。
予想外の展開に隣で絶句する娘。
そしてお金を入れてチャレンジすること2回目、これまでの娘の頑張りで少しずつ良い位置に来ていたこともあり、なんと笑顔のポケモンがゴトンと出口から出てきた……!
飛び跳ねる娘と安堵する私。
そしてトビキリの笑顔でポケモンを抱いた娘は
「ママが、ママで良かった…!!」と名言を残した。
これは母として最高の賛辞ではないのか。
うっすら感動してしまった。
「(私の)ママが、ママで良かった」
なんて破壊力の高い賛辞。
まさかゲームセンターで反抗期に片足入りかけた娘の信頼を勝ち得るとは。
「あなたが、2000円分頑張ってくれてたから、とれたんやで」
と、お互いを褒め合いたたえ合い、そしてUFOキャッチャーコーナーを後にした。
あれから2カ月。
あのポケモンは、時々忘れられながらも今日も布団の隅で笑顔で転がっている。
そして、掃除機をかけるときに動かすたび、あの日の娘の笑顔を思い出すのだ。
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