分岐点【掌編小説】
僕は「銅像」だった。
またダメだったのか。
僕は裸で岩に座り、なぜか左膝の上に右肘をついている。
この銅像の名は、芸術に疎い僕でも知っている。絶望的に落ち込んでいる僕とは裏腹に、見た目は、思慮深く「考える人」になっているんだろうな。
視界が限定的なため、詳しい場所はわからないが、ここからは海が眺望できる。高台に建てられているのだろう。
君は「カモメ」になったんだね。
水面を蹴って舞い上がり、風を切って飛行する。気持ち良さそうだ。自由に飛び回ることができて羨ましいよ。
僕はここだよ。早く見つけて会いに来て。
***
生まれ変わっても僕たちは出会えると信じ、永遠の愛を誓ったのに、いくら生まれ変わってもなかなか人間に戻れない。前回は犬と猿だったし、その前はカエルとヘビ……。
同じ時代に生まれてくることができても、人間になれるとは限らないんだね。
でも、僕らはどんな姿形になろうとも、お互いをすぐに見つけられる。やっぱり、運命で固く結ばれているとしか思えない。
そして、次こそ人間になれるような気がする。
***
カモメの君は、銅像である僕を見つけて、頭上に止まった。
ゆい!
僕だよ。
クゥンク……。
クゥンク……。
痛っ!
僕は頭を叩かれた。
何するんだ。
目の前の風景が一変する。
うわっ!
僕はベッドの隅に追いやられ、崖っぷち状態だった。下手に動くと落ちそうだ。
……さっきのは夢か。
3分の1程度しか起きていない体を動かし、僕はベッドの上に座って、周りを見渡した。
君はベッドの大部分を占領して、いつものようにバンザイしたまま熟睡。薄暗い中でも、羽ばたくように腕を動かしているのが見える。
なるほど。これが頭に。
クゥンクゥ〜ン。
ん? 遠くからカモメの鳴き声が聞こえたような……。
まだ夢の中か? いやいや、そんなはずはない。もう銅像でもないし、ここは海のそばでもない。まぁ、裸ではあるけれど。
僕は混乱した。しかし、久しぶりに会ったゆいが目の前にいるため、思考がシャットダウンを望んでいる。僕は本能に逆らえず、ゆいの元へと戻る。
体の前面に、君の温かさと柔らかさを感じた。そして君は、上げていた腕をもぞもぞと下ろし、僕の背に回す。
ゆい。愛してるよ。
さっき夢を見たんだ。僕らが生まれ変わる夢。前に話したことがあるだろう。何回生まれ変わっても、かならず会える……。
クゥンク! クゥンク! ガ、ガガガ!
クゥンク! クゥンク! ガ、ガガガ!
つんざくような激しいカモメの鳴き声と、窓ガラスを叩く攻撃的な音。
カーテン越しに1羽の鳥の影が映る。
窓を開けろと言わんばかりの、威勢のよさである。
なんなんだこれ?
こいつは何をしているんだ?
カーテンを開けると、カモメと目が合ったような気がした。
まさか。
そんな。
ゆい? でも君は、僕の腕の中……。
も、もしかして。
本当に?
えっ、うえー!
僕はどこで間違えたんだ!!
完
©️2023 ume15
くだらない話に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
「初夢」をイメージして当拙作を書きましたが、わたくしの初夢ではありません。念のため。
また、窓を叩くカモメのような経験もございません。念のため。
すべてフィクションです。
念押しするほど、疑われることってありますよね。関係のない話ですけれど。
それでは、また。クゥンク!クゥンク!
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