サンタメテオ【掌編小説/長すぎるあとがき】
踏み心地の悪い地面
数十センチメートルごとに
地面が隆起している
進むたびにバランスが崩れ
体がふわふわする
頭がくらくらする
体が不安定になって
それが心にも伝わって
自分を見失いそうになる
これはわたしが選んだ道
自分が望んだこと
だから投げ出したりはしない
隆起した地面での訓練も
平衡感覚を養うため
それもあと少し
十二月は目前
ここは豪雪地帯だから
雪上での訓練も始まる
活動の中心は空なのに
あらゆる場面を想定して訓練する
見る人の期待を裏切らないために
もうすぐわたしの夢がかなう
そうしたら大空を飛んで
今度は子どもたちに夢を届ける
***
サンタクロースになるための訓練は、なかなかの体力勝負であり、今日も相棒のトナカイたちに愚痴を聞いてもらっていた。
アドベント期間に入り、本日はシュトーレン第一日目。「今日より明日」と日に日に美味しさが増していくシュトーレンを食べ終える頃、わたしもみんなの仲間入りができる。
「サンタオンラインショップ」にも、徐々にクリスマスプレゼントの注文が入り始めている。
ご存知のとおり、プレゼントを届けるのはサンタクロースではなく、二十一世紀半ば以降、専門の配送業者に移行している。
なので、サンタクロースの主な仕事は、オンラインショップのバイヤー業務と、クリスマスに行われる空中ショーの企画、構成、出演である。
空中ショーは、クリスマスソングが流れる中、トナカイが引くイルミネーションで彩られたソリに乗って、サンタクロースが登場し、音楽に合わせて、光のドローンなども従えて夜空を飛行する、というものだ。
この企画は、さまざまな理由によりプレゼントがもらえない子どもたちにも、無料で楽しんでもらいたい、という思いから開催されるようになった。
サンタクロースによるこのショーのフィナーレは、「サンタメテオ」と呼ばれている。サンタの流れ星、という意味である。
スーッと流れるように立ち去る姿が、流れ星に似ていることから、その名前がついた。
子どもたちはショーを楽しんだあと、サンタクロースが「 Happy Holidays !」と言って手を振ったら、それを合図にサンタメテオに向かって願い事をする。
わたしも幼い頃、毎回、毎回、同じ願い事をしてきた。
「サンタクロースになりたい」
やっとその願いがかなう。
あともう少し。
ソリのメンテナンスと相棒のトナカイのブラッシングが終わって、獣舎から外に出ると、空は深い藍からこぼれ落ちそうな星空だった。
手を伸ばす。
見飽きることのない、美しい星空。
あ、流れ星。
わたしは祈った。
「世界中の子どもたちに幸せを」
©️2022 ume15
【解説っぽいあとがき】
お読みくださりありがとうございます。
本日は、解説っぽいあとがきに挑戦してみたいと思います。
そこに至る経緯(ひとりごと)は以下のとおり。
「ume15 の書く文章は抽象的な表現が多いから、わかりにくいよねぇ」
「ああ、だったら解説を付けてみてはどうだろう?」
「でも、解説ってふつう、誰かに書いてもらうものだよね」
「そうね。うん? いや、客観的な内容であれば、自分で書いてもいいんじゃない? ume15 としてではなく、架空の誰かを設定して。たとえば ume75 の視点から書くとか、なら……」
このようなポジティブな思考が電気信号として脳内に流れ、新しい思考回路ができたのか、クラッシュしたのかは不明だけれども、やってみようではないか、という結論に達しました。
では、さっそく。
ume75 と申します。よろしくね。
「サンタメテオ」に願い事をし続け、もうすぐその夢を実現させる主人公が、サンタクロース養成所で訓練を受けている様子と、近未来のサンタクロースの仕事について書かれたお話です。
「そのくらいはわかりますよ」
「ですよねー」
なので、敢えてわかりにくい切り口から始めたいと思います。
***
「大人になる」とはどういうこと?
「視点」という観点から、考えてみた。
「大人になる」とは、視点を「点」から「面」へと広げていくこと。また、「面」から「点」を見られるようになること、なのかな。
いろんな視点を持ち、そのデータが蓄積していって、やがて視野が広くなる。始めは点であったものが、やがて集合体、つまり、面となる。
また、その過程で、見えないものに対しても、想像し補足する能力が備わってきて、今度は面に「奥行き」が加わる。
主人公がサンタクロースになりたいと思ったのは、最初は単純な憧れだったのかもしれない。みんなの人気者になれる、というような出発「点」。
でも、成長するにつれ、憧れだけでなく、もっと「多面」的に考えるようになって、決意を固めていったと考えられる。
たとえば、子どもに携わる仕事がしたい、人に夢を与えたい、社会貢献したい、さらには、サンタクロースが子どもたちに与える影響から奉仕の気持ちが芽生えたりして、本格的な目標になっていったと想像できる。
「今日より明日」と熟成されていくのは、シュトーレンだけではなさそうだね。主人公も日々成長している。
成長した主人公は、子どもたちの幸せを心から願っている。その証拠に、突然の流れ星の出現に対し、何を祈ろうかと戸惑うことなく、すぐに祈りを捧げた。
人としての「奥行き」を感じさせるシーンである。これから彼女はもっと成長し、素晴らしいサンタクロースになるに違いない。
小説の前半の独白は、心穏やかではないけれど、主人公は自分を鼓舞しながら、訓練を受けている。
言葉が断片的だったり、心象的だったりしているが、それは訓練中だからであって、意識が基本的に体に集中しているためだ。
もしかしたら、主人公の抽象的な表現は、人生全般についても示唆しているのかもしれない。
ume75 は『冬の夜空を見上げて〜サンタメテオ』を読んで、実はちょっとドキッとした。ume15 に大事なことを問われているような気がして。
あなたはいかがですか?
この問いに、すぐに答えられますか?
***
夜空を見上げて
あなたは何を願いますか?
サンタメテオに。
そして
流れ星に。
(了)
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