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手放せないんだ


 キッチンの片付けを終え、ふとリビングをのぞくと、小さな頭がふたつ、仲良く並んでいる。

 4才の娘が1才の息子に、絵本を読んでくれているようだ。

 『まるてん いろてん』

 娘は、文字が読めるわけではなく、わたしが読み聞かせた、そのままを覚えているみたい。息子は、娘の隣におとなしく座って、絵本を見つめている。娘はそれらしく、ページをめくり、読んでいく。

 「いろてん てんてん てん てん てん てん…」

 最後のページになると、必ず息子は大笑いする。言葉のリズムが楽しいのかな。それにつられて、娘も笑い出し、わたしまでつられて、笑ってしまう。そんなふたりが、可愛すぎて。

 同じ本を、息子は何度も何度も、娘に読んでもらっていた。そうして、何度も何度も、同じところで大笑いする。娘もうれしがる。笑顔の子どもたち…


 はっと、我にかえる。絵本を片付けていたはずが、気づいたら思い出に浸っていた。今年、娘は二十歳、息子は17才。あれから、もう16年が経っている。

 ただ、この『まるてん いろてん』の絵本を見るたびに、いつもそのときに戻ったように、懐かしく思い出す。ふくふくとしたほっぺ、笑顔の子どもたちを。

 そんな絵本が、うちにはたくさんある。だから、なかなか手放せないんだ。







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