食中毒回避法

牡蠣、レバー、鶏肉…リスクがあっても生で食べたい美味しいものはたくさん。美味しい食べ物とお酒のペアリングが大好きな柴ももちろんそういった手合が好物だが、幸いなことに当たったことはなく、周りが当たっている時ですら自分は問題なかった。
私がこれらを食べる時にはいくつか気を付けていることがあるのだが、どうやらこれは一般的なことでは無いようなので、これを紹介しようと思う。


とにかく早く食べる

生食の料理が出てきた時には、とにかく早く食べることだ。

菌類が不活性たる冷温にあった生の食品が盛り付けられ、我々の前に来たその時から、あるいはその前の調理段階から、その生の食品の温度は常温に近付いてくる。どれだけ流通の過程で菌類が不活だったとしても、活性を取り戻す温度に戻ってしまえば、菌類は活動を再開し、毒素を産生し始める。

また空気中には空中浮遊菌(や、浮遊物質に付着した菌)がいる。流通の過程が完全だったとしても、彼奴らが付着すること、これはクリーンルームでも100%避けるのは難しい。

我々が飲みの席での歓談を続ける間に、これらのリスクが増大することをしっかり念頭に置いて、相手が上司でも、財政界の天上人であろうとも、話の流れを遮ってでも「生モノですから、とりあえず頂きましょう」と言うべきである。そして、機を逃しぬるくなった、乾いた刺し身などは食べないこと。

ちなみにこれは生食に限らず、普段 家で料理をする際にも当てはまる。カレーを傷ませてしまった経験がある方も多いと思う。菌類が死滅する高温か、活動できない冷温に保ち食品をできるだけその中間にあたる常温に置かないこと。そして空気に触れさせないことが肝要である。菌類が産生した毒素自体は、あとから加熱しようが分解されないことがほとんどである。

我々にとって過ごしやすい温度は菌類にとっても過ごしやすく、我々にとって美味しい食品は菌類にとっても美味いのだ。

薬味を一緒に食べる

  • ねぎ(硫化アリル)

  • にんにく(アリシン)

  • 大根おろし(イソチオシアネート)

  • わさび(アリルイソチオシアネート)

  • 大葉(シアニジン、ペリルアルデヒド)

刺身にあわせる代表的な薬味には上記の通り、殺菌作用を持つ成分を含むものがこんなにある。古来より経験則で「これと合わせて食べるとお腹を壊さないぞ」と何となく察されてきたのであろう。

「わさびに含まれる殺菌成分なんてちょっとだから、殺菌するにはわさびnキロ食べないと意味ないよw」

─────などと宣う人が、一定数いる。
愚かだ。本当に愚か。どうしようもない馬鹿。知識だけで知恵がない。生化学系なら学士卒でもin vitro/in vivoという言葉を聞いたことがあるはずだし、工学系なら実験のたびにレポートで理論値と実験結果の乖離について考察させられただろう。この国の大学進学率は50%を超えているというのに、どいつもこいつも大学で何を学んできたのか。中卒の私でも考えられる思慮に至らない。私は深い嘆きの中にいる。
閑話休題。

科学的に効果を証明する際には「なんか少なくなったな〜」などではダメで、「○○という条件のもと○○gの○○を使うと○○が消滅することが確認された」というような、再現性の高い厳密な結果が必要だ。殺菌効果を説明するには全滅させ得る化学当量(あるいは生化学的、生理学的なそれ)を明らかにする必要がある。
さて、効果を発揮する全量を分割して─────例えば10%を入れた時にはどうなるだろうか。10%の菌が死滅するだろうか。答えは否であり、50%を超え70〜80%が滅されることがほとんどである。ミクロなレベルでは分子同士の接触という確率によって化学反応が起きており、効果は対数グラフのように上がっていくのである。化学系の学生なら実験の基礎にて洗浄の理論などで習っているはずだ。確実100%を達成するのに必要な量に比べて、7割8割の効果を出すために必要な量というのは一般にその割合よりかなり低い。
現実的な環境───咀嚼という割と念入りな撹拌作業を受ける、食事の中───では、まさにそれが理想的に発生するため、部分的には菌が死滅し、確率的には全滅もさせ得、結果として当然食中毒の可能性を下げる。効果がないと言う方が実は厳しいのではなかろうか。そして、この食文化が残ってきたことがその傍証とも言えるのではないか?

長くなったが、伝統的な薬味はある程度食中毒の抑制が見込めるので、ドカドカ盛って一緒に食べよう。

酒で流し込む

流石にちょっと行儀が悪いし、単純に少しもったいない。若干非推奨気味。

それでも私は、やる。

美味しい生モノを口にし、よく咀嚼し、十分味わったら─────焼酎を一口、くい、と。そして一度軽く噛んで、混ぜて、飲み下す。
さすがの菌類も、直接アルコールに曝されては生き残れまいよ。

貴重な生モノ、飲み込むまで味わい尽くしたい気持ちも当然あるが、食中毒の苦しみを考えれば、私はこれをやめることができない。
そしてこれは明らかに、効果がある。鶏刺しの出た飲み会の中で、自分だけが翌日 食中毒を起こさなかった時に確信したのである。

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以上が和柴の生モノ食中毒無敗の要点だ。
これさえ心得れば生モノなんて怖くない。後は食べるのみ。
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