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新任指導主事が直面する「リアリティショック」(前編)

 早いもので5月である。
「4月は、あっという間に過ぎ去った」
 と感じている人も少なくないことだろう。

 その一方で、4月の1か月間が永遠であるかのように長く感じられ、ゴールデンウイークが来るのを心待ちにしていたという人もいたはずだ。

 この4月から学校現場を離れ、新任の指導主事として働いている人たちの多くも、この「長い4月」を実感していたに違いない。

 新任指導主事の場合、教員時代に学校間での異動をした際にも、不慣れなことの多さなどからこうした「長い4月」を感じたことはあっただろう。しかし、学校の世界から教育行政の世界に移った場合にはその比ではない。

 慣れないと感じる理由の一つは、学校と行政との組織や文化の違いにあるだろう。

 学校にも校長をはじめとする管理職はいるし、教務主任や学年主任などのポストもある。また、近年は主幹教諭などの中間管理職的な役職も設けられている。それでも、教職員の集団は階層の少ない「フラット型」の組織だということができる。

 一方の教育委員会事務局は、教育長をトップに教育次長、部長、課長、係長などの役職が設けられた「ピラミッド型」の組織である。そこに「専門スタッフ」として組み込まれている指導主事の立ち位置は微妙だ。こうした組織のなかでの情報伝達や意思決定の仕組みに、最初のうちは戸惑う指導主事が多いことだろう。

 これが小さな市町村の教育委員会事務局であれば、家族的な雰囲気のところもあるだろう。しかし、都道府県や政令市の場合には大所帯で、まさに役所そのものである。

 組織が大きくなれば、同じ教育委員会事務局であっても「他の部署が何をやっているのか、よくわからない」ということも多い。それに加えて、「他の部署がやることには口を出さない」という役所に特有の文化もある。

 それでいて、首長の意向や議会の決定により、方針が180度変わることも珍しくない。大規模な高校や特別支援学校などを除くと、せいぜい50名程度の「お互いに顔が見える」組織で働き、そのなかで意思決定をしてきた者にとってはギャップが大きいはずだ。

 ・・・また、役所は「文書主義」である。作成する文書の多くには上司の決裁が必要であり、そのためにかなりの労力を要する。役所独特の文書作成上のルールがあるし、公的な文書を作成するためには法令や文科省等からの通知、過去の発出文書の内容などを踏まえる必要がある。

「どの文書を参考にすればいいのか」
「その文書はどこに保存されているのか」
 という勘所をつかむまでには、一定の時間を要することだろう。


 新任指導主事のなかには、教員時代に教育委員会がやることを批判的に見ていた者もいることだろう。

「なぜ、こんなにピント外れな取組をするんだ」
「このクソ忙しい時期に、こんな調査をしやがって」
「教員の欠員がある状態で新年度がスタートしたが、いつになったら人が配置されるんだ」

 こうした学校現場からの「当たりの強さ」を、今度は自分自身が受け止める側に回るのだ。これによって心身を疲弊させる指導主事は多い。

 ・・・しかし、新任指導主事が直面する「リアリティショック」は、まだまだあるのだ。
(つづく)

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