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カムイを知る「アイヌの建築と工芸の世界」展|国立近現代建築資料館

カムイとはいったい何なのか?
このところ、アイヌへの関心が高まりつつあるようです。
漫画や映画によって「カムイ」という言葉も知られるようになりましたね。

そのアイヌ文化を紹介する企画展が、東京の国立近現代建築資料館で開催中です。
チセ家屋や植物の利用方法など、これまではあまり紹介されることのなかったアイヌ文化も知ることのできる内容となっています。
「カムイと共にある」アイヌの人々の生活や世界観を覗いてみましょう。


アイヌ民族について

北海道をはじめ樺太、千島の先住民族であるアイヌの人々は、大自然の中で伝統的な狩猟採集や漁労、本州との交易によって生活をしてきました。
アイヌ語や口承文芸、伝統的な儀礼などの独自の文化は、他からの支配の無い自立した社会の中で、脈々と受け継がれてきたのです。

明治時代になるとその状況が大きく変化しました。
政府はアイヌの人々を日本国民に同化させることを目的に、土地政策や日本語の習得、伝統的な風習の禁止などを強いたのです。

アイヌ民族は生活に大きな打撃を受け、独自の文化の伝承も困難になりました。

「アイヌの人々がアイデンティティや独自の文化を失うことなく受け継ぎ、未来へと繋いでいく」
その為の取り組みが今ようやく各地で行われるようになり、アイヌ民族と文化への理解が深まり始めています。

カムイとは何だろう

アイヌ語の「カムイ」は、日本語の「神」や「神格」を意味します。
アイヌの世界観では、あらゆるものにラマッ霊魂が宿ると考えられ、その中で人間にとって重要な役割をするものや影響のあるものを「カムイ」と呼びます。

山や川、動物や植物、太陽や月、星、風や雨や雷、火、さらに人間が作ったものも「カムイ」と呼ばれることがあるそうです。

人間の生活は「カムイ」と共にあり、「カムイ」に感謝し、敬い、祈りを捧げる…アイヌの根源には「カムイ」があり、その祈りのための儀式がアイヌ文化の特色の一つと言えるようです。

儀礼用のトゥキ(杯)

チセ家屋

多くは長方形で中央に炉、小さなもので10坪、大きいもので30坪ほどで、地域や家族構成によって違いがあるそうです。
家にはカムイが出入りする「神窓」が設けられ、その外にはヌサ祭壇が作られました。

柱には硬く腐りにくいカシワやクリ等を使い、壁はヨシやササ、種皮などを束にし断熱効果をもたせていました。
屋根は雪の重みに耐えられる合理的な「屋根を支える」構造で、国立アイヌ民族博物館のロゴマークにもなています。

左上部のロゴは「支える」がコンセプト

また樺太や千島では、夏と冬は形態の違う家屋に移り住んでいました。
冬に過ごすトイチセ土の家は半地下の竪穴式で、地面に1~1.5mの穴を掘り、屋根には草を吹き、さらに50㎝ほどの土を被せた保温効果のある作りになっていました。

チセの廻りには、儀礼用の小熊を飼うヘペレセックマ檻や、高倉アシンル便所が建てられました。

1900年頃のコタン(集落)

マキリ小刀

男性は狩猟や漁労、木彫で、女性は植物採集や調理で使ったものです。
さやや柄は、カエデやクルミなどの硬い材質の木やシカの角などが用いられ、そこには様々な彫刻を施されました。
刀は本州との交易で手に入れていました。

素材、文様は様々

アットゥㇱ樹皮衣

木の繊維で作ったアットゥㇱは、この世に訪れた「木のカムイ」の衣服を拝借して作るものと考えられていました。
樹皮の糸で織った布に刺繍を施し、日常着や儀礼用の服が作られました。

木の幹に水分が多い初夏に樹皮を削ぎ落し、水などで柔らかくし一枚づつ層に剥がし、細かく裂き、指で撚りをかけながら紡いで長い糸にしていく。

気の遠くなるような工程は、カムイへの感謝があるからこそ出来たのかもしれません。

カムイノミ

カムイノミは人間がカムイへ祈りを捧げる儀式のことです。
シントコ(酒を入れる樽)の酒を漆器に注いで、イクパスイという祭具で神酒と共に祈り詞をささげました。

ウルシ塗りのシントコ(酒を入れる樽)は交易によって本州から手にいれ、チセ家屋の中で飾られ宝物として扱われました。

イクパスイは人間の祈り詞を補って伝える道具とされ、表面には様々な文様が彫り出されています。

アイヌの植物利用

身の回りの植物に豊富な知識を持ち、食、医、住に利用してきたこともアイヌ文化の大きな特徴と言えます。

野生植物は「カムイ」が人間のために用意してくれたもので、植物そのもが「カムイ」であり、必要な時に必要なものだけ感謝して用いてきました。

アイヌ語による植物の名称には、利用される茎や葉、根といった部位ごとに名前が付けられています。このことからも、それぞれの植物に精通し、その特性を生かして生活の中で利用していたことが分かります。

カムイと共に

カムイと共に生きてきたアイヌの人々は、その育んできたアイヌ文化を継承しつつ、新たな工芸品を生みだしています。

彼らがこれからも民俗のアイデンティティに誇りを持ち、アイヌの世界観や文化を伝える大切なツールになってくれそうです。

次世代の工芸家が育成されています

また私たちがカムイを知り、アイヌ文化を理解することは、縄文時代から自然と共に生きてきた私たちの歩みを知るヒントになるように感じます。

1900年代初頭のチセの前

日頃忘れがちな自然への敬意や感謝、手仕事の素晴らしさなど、アイヌ文化から教わることは多くあるようです。

*写真は全て展覧会で撮影、内容は展示資料を参考にしました。

最後までお読みくださり有難うございました。

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