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『シカゴ7裁判』のオープニングが面白い

先日ブログのほうでシカゴ7裁判について書いたのですが、ここではもうすこし具体的にオープニングシーンの話をしたいと思います。
(冒頭5分のネタバレ有りです)

https://sia24601.hatenablog.com/entry/2020/11/01/122318

映画冒頭で、この映画の主役である「シカゴ・セブン」(シカゴ暴動に関わったとされる七人)が次々に登場し、反戦を訴える演説をします。

面白いのは、このシカゴ・セブンたちはそれぞれ全然ちがった話をしてるのに、それを編集で繋いで話がひとつづきになっているかのように見せているところ。

と言ってもわかりにくいので、オープニング・シークエンスを順番に追っていきたいと思います。


まず冒頭、激化するベトナム戦争とそれに徴兵される若者たちを映したニュース映像が流れていきます。

続いて、SDSの代表トム・ヘイデンとレニー・デイヴィスが現れ、大勢の若者たちの前で演説を始めます。
一ヶ月後にシカゴの党大会で民主党がハンフリー副大統領を指名することになっているがそれでは現状は変わらない、とヘイデンは理路整然とした語り口で訴えます。

「みんなバスでシカゴへ行こう。ぼくらの連帯と嫌悪の情を示すんだ」

ヘイデンはシカゴでの反戦デモの必要性を説きます。さらに彼はこう続けます。

「だが、一番重要なのは……」


「初対面の人とヤることだ」

ヘイデンが話してる途中で、突然アビー・ホフマンとジェリー・ルービンが大衆の前でスピーチしている場面に切り替わってしまいます。
アビーの下品なジョークのせいで、大真面目に反戦を訴えていたヘイデンの言葉が一気に滑稽なものに映ります。
この一瞬でアビーとヘイデン両者の性格の違いや相容れない関係性がはっきり見て取れるわけです。

アビーとジェリーは無責任に若者を戦地へ送りつづける政府を批判しながら大衆を煽り、ヘイデンらと同じくシカゴ行きを呼びかけます。
そして、演説中にヒートアップしたアビーは息巻いてこう切り出します。

「俺たちは平和的にシカゴへ行く。だが、向こう(警察)が暴力を使えば、俺たちはそれに対抗するためにーー」


「非暴力だ。どんな時も非暴力を貫く」

ここで場面が切り替わり、シカゴ出発前のデリンジャーが小さな息子に対して語りかけるシーンになります。
アビーとのテンションの落差が面白い。政府によって左派の危険分子として十把一絡げにされた彼らですが、両者の反戦運動におけるスタンスがまるで異なることがこのシーンだけでも視覚的によくわかります。

「警察に暴行されたらどうするの?」と心配する息子を「警察がそんなことをするはずない」と諭すデリンジャー。
ここのセリフで彼が暴力を嫌う性格だということを観客に印象付けています。
ですが彼の妻子は彼ほど楽観的ではなく、暴動が起こる危険を不安視しているようです。
なおも警察に攻撃される事態を懸念する息子に対し、デリンジャーは「もしも逮捕されそうになったら、父さんはどうすると言った?」と問いかけます。

「穏やかに、礼儀正しくーー」


「ぶちのめすんだ!!」

ここで場面はブラックパンサー党の議長ボビー・シールの場面へ。
黒人の権利のために闘う彼は、非暴力を訴えて殺されたキング牧師を引き合いに出し、好戦的な態度でシカゴ行きを意気込んでいます。
ここのセリフ、原語では"F*ck the motherf*ckers up!"とかなり口汚い言葉を使っています。子どものセリフからシームレスにここにつなげるのがなんともブラック。

ほんの5分ばかりの尺で一気にキャラクター像やこの映画の作風をも伝えてしまうこのスピード感が楽しい。

そして最後に再度ニュース映像が流れ、タイトルクレジットが映ります。
クレジット後、肝心のシカゴでの暴動の様子はいっさい映さず、裁判初日まで一気にタイムジャンプするのも上手い。
実際にその日その場所で何があったのか?という顛末については、裁判のなかで徐々に知っていくことになります。まさしく視聴者が陪審員のような目線で考えることができるような構造になっているんですね。


というわけでオープニング良いよねっていうだけの話でした。ここだけ切り取っても完成度の高い映画だなってのがよくわかる。この一連のシークエンスの間ずっと流れてるアップテンポな劇伴も好き。

それにしてもこの映画めちゃめちゃ面白いのに観てる人がまだそこまで多くなさそうでもったいない。(かくいう僕も最近になって存在を知ったのですが…)

みんなの注目を惹くためにタイトルをシカゴ700,000,000,000,000,000,000,000裁判とかにすればいいと思う。

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