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11.学ぶことの大切さー中国の盧溝橋ー


知識を得ることの大切さ

 吉田兼好よしだけんこうによる随筆徒然草つれづれぐさの一節(第52段)に、次のような話が出てくる。


 ある時、仁和寺にんなじ(注1)の老僧がひとりで男山八幡宮おとこやまはちまんぐう(注2)に参詣した。ところが老僧は山麓の極楽寺、高良こうらの末社に参拝したのみで、山上にある本殿は拝まずに帰ってきた。そして、次のように言ったそうだ。
 「お参りの人々がみんな山に登って行く、山登りに来た訳でもないのに・・・・」、あらまほしきは・・・・先達せんだつということだ。


 すなわち、知識と経験が豊富なはずの仁和寺の老僧でも、男山八幡宮の本殿が山上にあるという知識を持たずに参拝すれば、僧侶としてあるまじき事態に陥るという教訓である。
 何ごとにも先達、つまり案内者が必要ということだ。些細なことでも、そのことについて導いてくれる人が必要である。

(注1)仁和寺:京都市右京区御室おむろ大内にある真言宗御室派の総本山。寺名は888年(仁和4年)創建にちなんで命名され、皇室出身者が代々門跡(住職)を務め、平安〜鎌倉期には門跡寺院として最高の格式を有した。
(注2)男山八幡宮:京都市外の八幡市にあり、859年(貞観1年)創建。現在は石清水八幡宮と呼ばれる。都の南西の裏鬼門に位置し、北東の鬼門である比叡山延暦寺と共に都の守護、国家鎮護の社として崇敬を受けてきた。

写真1 京都市八幡市の石清水八幡宮(昔の男山八幡宮)

中国に現存する最古の石造りアーチ橋

 古代ローマ帝国が滅亡した後、石造りアーチ橋の技術はササン朝ペルシャに伝わり、シルクロードを通り中国へ伝わったと考えられている。

 中国に現存する最古の石橋は、隋代の605~616年頃に李春により河北省石家荘の洨河こうがに架設された趙州橋で、安済橋とも呼ばれている。
 橋長:50.82m、幅:9m、アーチスパン:37.37m、高さ:7.23mの偏平円弧アーチ橋である。橋の両側には2個のアーチ型の洪水開口部があけられ、橋の軽量化とデザインの美しさを演出している。

 現在まで、橋面や欄干は補修・交換されたが、アーチは建造時のまま使い続けられている。1984年まではバスやトラックも通行したことから、完成度の高い偏平円弧アーチ橋である。

写真2 河北省石家荘の洨河に架設された趙州橋 出典:建設コンサルタンツ協会

 中国でも橋の長大化は進み、欧州の堅朗なアーチ橋に比べて多くの流麗な連続アーチ橋が架橋されており、完成度の高さを伺うことができる。

 江蘇省の宝帯橋は、816~819年に架けられた53連の石造りアーチ橋(橋長:1117mのうち、249.8mが花崗岩製)、福建省の万安橋は、1053~1059年に架けられた48連の石造りアーチ橋(橋長:540m)が知られている。

北京市西部の永定河に架かる盧溝橋

 北京市西部の永定河(旧盧溝河)に架かる盧溝橋ろこうきょうは、マルコ・ポーロが東方見聞録とうほうけんぶんろくの中で、「この河に、非常に美しい大きな石の橋が架かっていることは一言する価値がある。この世の中で、こんなに美しいものはたぐいまれである。」と記していることでも知られている。

 1189年に架けられた橋長:266.5m、全幅:8m、11連の石造り円弧アーチ橋である。橋桁は白色大理石でつくられ、高欄の石柱上には一体一体姿の異なる獅子の彫像が飾られている。

 写真では水かさが増して見えないが、洪水と氷塊に備えて橋脚は上流側と下流側をとがらせ、斬竜剣ざんりゅうけんと呼ばれる三角の鉄柱が氷塊を砕くために立てられている。
 また。橋床の中央部にはわだちの跡が残る古い石畳が配されているが、1980年代におこなわれた修復工事の折に長い歴史のあかしとして残されたものである。

写真3 永定河(旧盧溝河)に架かる盧溝橋

頤和園の昆明湖に架かる玉帯橋

 中国には多くの石造りアーチ橋が現存している。中でも、北京市北西部の郊外にある頤和園いわえんの昆明湖に架かる玉帯橋は秀麗である。橋長:30.5m、スパン:11.38m、 高さ:7.5mの 尖頭型 円弧アーチ橋で ある。

 玉帯橋は湖面に映ると円形が見え、美しい白色大理石造りの半円アーチ橋である。欧州から伝わったアーチ橋の原理を学び、見事に昇華させたもので、当時の技術レベルの高さが伺える。

 頤和園は清朝第6代皇帝の乾隆帝けんりゅうてい(1736~1795年)が母親の還暦を祝い造営したもので、1860年の第2次アヘン戦争で破壊されたが、1875~1908年に西太后により改修された。
 乾隆帝が頤和園の西5~6kmほどの場所にある玉泉山に船で向かう際、昆明湖からの出口として通ったのが玉帯橋である。橋の下を船が通過できるように頭頂部は7.5mと高く設計された

写真4 北京市頤和園の昆明湖に架かる玉帯橋

韓国最古の石橋である錦川橋

 欧州からシルクロードを通じて中国に伝わったアーチ橋は、その後、韓国にも伝わる。

 ソウル市の昌徳宮《チャンドックン》の入口奥にあるアーチ橋の錦川橋クムチョンギョは、ソウルに残る最古の石橋である。1411年、李朝3代国王太宗の時代に建造された石造り2連アーチ橋である。石積みは中国式のリブアーチで、中国から伝来したことが分かる。
 宮殿を守るためか、南側の橋脚の足元には獅子、北側には玄武を配すなどの装飾が施されている。

写真5 ソウル昌徳宮に残る韓国最古の石造りアーチ橋の錦川橋

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