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あなたのためのパンケーキ

 明日好きな人が家に来る。泊まりとかではなくて午後二時から夜までの短い間だ。初めてその人が家に来ることが私にとって胸が高まって仕方なかった。あの人に会いたい、あの人にもっと好きと言ってもらいたい。

 あの人が来たら手料理を振る舞おうと思っている午後三時のパンケーキ、焦げ茶色の丸いパンケーキをあの人が食べて美味しいと言ってくれる所を想像する。

 うん、これであの人がもっと私を好きになってくれるはずだ。時刻は夜の九時、今から試しでパンケーキを作る。一発勝負はダメだ。なんせ私料理が下手なのだから、それはまだあの人に秘密。

 パンケーキの粉を入れて卵を割る。一個目、勢いよく卵をぶつけすぎて中身が零れてキッチンをつたう。力入れすぎたか、こうやってもう少し力を弱めて、よし、ヒビが入った。

 これをこうして両手でヒビの真ん中に入れて殻を破る。少量のカラと一緒になって黄身がボウルの中に零れ落ちる。カラをボウルの中から取り除く。

 これくらいならまぁ大丈夫だろう。黄身はもう混ぜる前からぐちゃぐちゃになっていて見た目は悪いけれど、平気平気。

 牛乳を入れる。この日のために計量カップを買ってきた。なんとなくレシピに書かれているのと同じくらいいれる。多分これくらいで平気。

 泡だて器もこの日のために買ってきた。勢いよく混ぜて粉がボウルから飛び出す。少しくらい零れても大丈夫だろう。そのまま混ぜ続ける。

 しばらく混ぜると生地がクリーム色になってとろみがつく。慣れれば泡だて器くらいなんてことない。

 フライパンを温めた後に生地を流し込む。生地がふつふつとしたところでひっくり返そうとするが中々固まらない。しばらく待ってフライ返しで生地を見たらすでに焦げていたので慌ててひっくり返す。

べちゃっっと音を立てて生地が半分に折れる。失敗だ。無理やり生地をひっくり返した時にはフライパンの周りは生地でべちゃべちゃになっていた。

 これが私の最初のパンケーキだった。最悪。

 このままではいけない。
 私はもう一度パンケーキを作り始めた。


 当日、好きな人が家に来た。
 「なんか顔色悪くない?大丈夫?」
 開口一番に顔色を心配されてしまった。
「ううん、大丈夫大丈夫ちょっとコンシーラー塗り過ぎちゃったかな。」

 午後三時

「パンケーキ作るよ」

私はキッチンに向かいながら堂々とそう告げる。

「え?!作ってくれるの?楽しみ~」

 好きな人は笑顔を見せる。よし、良い感じ。私はキッチンに立ってパンケーキを作る。

 そうして好きな人の前にまん丸い焦げ茶色のパンケーキを作って渡す。

「美味しい、料理出来るんだね。凄い。」

そういう好きな人のその顔が、私の幾度もの失敗を吹き飛ばした。
 「えへへ、まぁね」

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