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これは小説です。

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勢いで初めてみました。 短編小説を投稿していく予定です。マガジン名悩み中。
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2020年3月の記事一覧

俺のことを好きな俺は俺じゃない

俺のことを好きな俺は俺じゃない

 俺はもう一人の俺を押し込めて、目の前にいる女子に向かってこう答えた。
「いいよ、付き合おう。」
 そうして手を差し伸ばした。目の前にいる女子、吉田さんはうつむき加減で恥ずかしそうにしながら差し伸ばした手を握り締めた。
 気持ち悪いな。と、応えた俺は思った。もう一人の俺が俺の意思を破ろうと暴れまわっている。大人しいもう一人の俺、西がこんなに暴れるなんて久しぶりで俺には愛おしく感じてしまった。好きだ

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気になったことと後の時間の流れ

気になったことと後の時間の流れ

 仕事終わりの帰り道、ショーケースの中に入っていたソレを見たときはほんの一瞬だったからなにも思わなかったが、その日家に帰ってからというもののソレについて考えが頭の中をぐるぐると回った。なんでもなかったソレが気になったのである。
 とある古民家にある薄汚れたガラス製のショーケースの中でソレはきらきらと輝いていた。ショーケースの外には手で破いた白い紙に油性ペンで雑に書いてあった。
 「月500円、もし

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最低なことした君が好き。

最低なことした君が好き。

 結婚式をした一週間後に、男のインスタグラムで彼女と結婚したことを知った。私にはなんの報告もなかった。結婚式をする三日前に男は家に来ていた。
 男は浮気男であり、私が男にとって体のいい女だった。話を聞いて、体を貸して、そういう関係だった。だからこの突然の報告に驚きはしたものの予想できないことではなかった。私にとって信じられなかったのは男がそのインスタグラムを更新した後すぐに連絡をよこしたことだった

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S県で飼われている生き物

S県で飼われている生き物

 コンクリートというものを意識して歩いたことはとくにない。意識して歩いたことがあったかもしれないけれどそれすらも忘れるくらい私にとってはどうでもよかった。
 しかしである。S県に出張で行った後に私はいままでどうでもよかったはずのコンクリートを強く意識するようになった。コンクリートが出来立ての黒黒とした色なのか、様々な人が踏みしめ歩いて少し色にくすみが出てきたのかといったことを意識する。例えば、コン

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この穴からお前を見ている

この穴からお前を見ている

 夜、空は暗くなり星々が散る。見上げるとそこには煌々と照らされる満月がある。 町あかりが少ない場所に行けば、空から照らされる月明かりが一層強くなり、その姿に自然と視線が奪われる。
 だからなのであるからだろうか、私は1つの事実に気がついてしまったのである。完全な満月の日、満月は月ではなく白い穴なのだということに気づいてから私は完全な満月が怖くなってしまった。誰かに教えられたというわけではない、何か

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