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流動的なデフォルト

「最近気持ちが定まらないんだ。春だからかな。春の嵐かな。心がざわざわする。」

「そりゃ血液が毎日毎秒流れ続けてるから、気持ちも移り変わるよ。温かい血液が心臓に流れた時は優しくなれるし、冷たい血液が心臓に流れた時は人当たりも悪くなる。心臓は冷ましちゃだめなんだよって、心筋梗塞で亡くなったおじいちゃんが言ってた。言ってたっけ?」

「きみのおじいちゃんの話はあんまり好きじゃないし、見たこともないし、見たくもない。遺影はちょっとだけハンサムだったけど、目の前の骨とのギャップが酷すぎて、あの日は眠くなっちゃった。そういえば、きみのおじいちゃんのこと、骨しか知らない。」

「僕のおじいちゃんは冷たかったからね、きっと初めから骨しかなかったんだ。血液なんてなかった。冷たい血液さえもなかったと思うよ。だから献血には行かなかった。」

「献血はA型、O型、B型、AB型って分けてるけどあれは見せかけの分類で、本当は血液の温度で分けてるんだ。僕の血液は原則温かい。」

「わたしの血液はきっと冷たいよ。わたしたちが輸血し合ったら、温かさと冷たさの狭間でびっくりして、ショックを起こしてしまいそうだね。死んじゃうね。」

「血液半分こして死ねたら、なんか幸せだね。ぴったり50%になった瞬間、コトって死ぬのかな。同時に死ねるかな。」

「だったらいっそ、腹上死がいいな。白い液体の代わりに赤い液体をびゅーって出し続けるから、血液半分こ、腹上死しようね。」

「腹上死できるのは一人だけだよ。どちらかは下になっちゃう。」

「難しいね、平等。」


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