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話題の本「無人島のふたり」~山本文緒著~

 よく書いてくれました、と読後、思わず、呟いてしまいました。どんなに怖く、しんどかっただろう、と想像すると胸が痛み、それでも前を向いて周囲の方への心配りがあって、作家としての眼を持ち続けて原稿を書いた姿に頭を下げたくなりました。後半は、涙して読みました。
 膵臓癌で余命4カ月の宣告を受けてから亡くなるまでの日々の記録です。余命4カ月(120日)なので、120日以上生きなくちゃ日記、という副題があり、無人島のふたりは元編集者の夫との軽井沢での日々です。

☆「無人島のふたり」山本文緒著 新潮社  1500円+税

 私事ですが、去年の年末に義父を亡くしました。一方で、一昨年の11月、実父は癌が骨に転移して、余命1年の宣告を受けました。幸いなことに、今も生きてくれています。けれど、去年の11月ごろからは、宣告日を恐れ(期限のような感覚になり)、何時起こってもおかしくないと思うと、時として怖く、胸が痛くなる日々です。 

 山本さんの場合、毎年人間ドックに通っていたにも関わらず、急な発見で、その時、すでにステージ4で、4カ月の余命宣告を受けます。信じられず、セカンドオピニオンで違う病院でも検査するのですが、そこでも4カ月の宣言。
 昔は、本人には隠して、家族へ先に余命宣言はして、場合によっては本人へ宣告はしない場合もありましたが、今は、患者さんに選択権をもたすこともあり一般的に余命宣告するそうです。そして、主治医の経験で50%の生存可能な年数になるそうです。
 山本さんも抗がん剤の使用を拒否します。そして、緩和ケア診療へ移行します。父も家族で話し、友人の助言もあって、緩和ケアを選択しました。病院も見に行きましたが、家での介護を望み、生活しています。入院は嫌、入院してたまるか、という彼女の叫び、わかります。どんなに綺麗な病院でも、設備があって夜景が美しくても、やはり、見慣れた我が家でという選択。高橋伴明監督「痛くない死に方」を思い出しました。
 かえがえのない闘病の日々が、ご主人の献身や、編集者さんとの語らい、作家仲間の唯川恵さんのお見舞いなど、軽井沢の自然、素敵なカフェなども織り交ぜ、日記風にセキララに語られていきます。

 そんな中、亡くなる2週間前、カップラーメンを食べたのが美味しかった❣という彼女の記述にほっこりしました。夫にそんなに食べるなんて、と驚かれたとあります。どうしても栄養のあるもの、抗がん作用のあるものをと食事を食べてほしいと願いますが、ヨーグルト、納豆やブロッコリーばかりでは飽きてしまい、刺激のあるものも食べたくなりますね。そういえば、岸田奈美さんの日記でも、お母さんが入院時、マクドナルドが美味しいと言った記述があったなあ。。

 享年58歳。まだまだ書いて欲しかったし、彼女自身、いろんな構想があったようだけど、残念だけど、最後にまたひとつ、大きな仕事をされたと思います。もちろん、元編集者の御主人の協力が大きいと思いますが、この本は、きっといろんな人を励ますだろうし、山本文緒さんという作家の真摯な姿を胸に刻ませてくれました。

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