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夫の退職 やりたいことをやりたいねん

夫が退職するらしい。

以前から、
畑やりたいねん
蜂やりたいねん
と、ぶつぶつは言っていた。

我が家の軒下には、ニホンミツバチの巣箱がいくつも置かれている。

なんや、急にニホンミツバチに目覚めた夫は、いそいそと師匠を見つけ、巣箱を買い込んでいた。

その師匠は私に、
「奥さん。散財させますけど、必ずニホンミツバチの蜂蜜をとれるように、最後まで面倒みさせてもらいますからな。」
と言っていた。

そして、夫には、
「巣箱を置かせてもらうには、場所を選ばなあかん。その土地の持ち主にお願いにいかなあかんけど、時には、罵声を浴びせられることもある。でもな、そんなことでめげてたらあかん。」
と言っていた。

罵声を浴びせられるようなことって、どういうことなんや?

まあ、そんなこんなで始めたニホンミツバチの養蜂まねごとやったけど、やはり、仕事との両立は厳しく、2年ほどで休業となった。
もともと、超不器用な夫なので、そりゃ無理なことやったやろ。

それ以降、ニホンミツバチの「ニ」も言わなくなった夫は、もうあきらめたように見えた。
あとは、あの巣箱を、どこへ売り飛ばすのかを考えたらええのやな。

と思っていたら、退職して、蜂をやるらしい。
畑もやるらしい。

ずっと、蜂も畑も、寝言やと思ってスルーしてきた。
蜂って、そんな簡単なことではないって、身に染みたはずやのに。
巣箱を運んだり、ブロックを運んだり、力仕事をさんざん手伝わされてきた私としても、もうごめんやで。
そう思っていたから、なおさらスルー。
それに、夫はそんなに行動力にあふれているタイプではないので、まあ、たわごとの一つやと思ってた。


それがや。
それが、本気みたいや。

なんでなん?
なんで退職するん?
まだ、1年あるやん。
1年後やったらあかんのん?

そう尋ねる私に、すかさず答える夫。
いつもやったら、てのひらで鼻を覆いながら、
「あ~」とか「う~」とか言いつつ、ごにょごにょ話すのに。
(ちなみに、てのひらで鼻を覆いながら話すのは、言いにくいことを話すときの夫の癖である。)

そんな夫が、即答だった。
びっくりである。

「たとえ1年であっても、少しでも身体が動くうちに、畑や蜂をやりたいねん。
やりたいことをやりたいねん。

夫がその言葉を言う時に、「きっぱり」という曲がBGMとして流れているようやった。
「きっぱり」なんて曲があるのかどうかは知らんけど。

やりたいことをやりたいねんか・・・・。


そう言われてしまったら、もう言いようがない。

我が家の経済状況について、まったく何も知らない夫だが、私の治療費については、一応考えたらしい。
後は、無駄遣いをしないということを、決めたらしい。
無駄遣いって、定義があやふやすぎるけどな。
まあ、いいか。

4月から、いったいどんな生活が始まるのかは、さっぱりわからへんけど、ちょっと面白いかなと思っている私がいる。
不安もあるけど、不安よりも、面白さが勝っているのは不思議。
貧乏生活も、それはそれでいいか。

まあ、なんやかんや言うても、夫は、週に三日はお仕事に行くそうや。

それにしても、
やりたいことをやりたいねん
という言葉の破壊力は、私にとっては大きかったなあ。

私は、自分が退職した時は、退職を、とっても大げさに受け止めていたけど、もう退職して3年が過ぎようとしている今、退職も一つの通過点やなあということを実感している。
その後も、生活は続くし。
人生も続くし。
そして、あの時に、体調を考えて、退職をしたことはやっぱりまちがってなかったなと、ようやく思えるようになってきた。そう思えるのに、3年もかかってしまったわ。
それと比べたら、
やりたいことをやりたいねん
と言い切る夫の方が、いさぎよいかもしれん。

なんか、腹立つわ~。

まあ、やりたいことをやってくれ。
ほんで、無駄遣いをやめておくれ。

これいくらやったん?
えっ?知らん。

そんな会話が、我が家からなくなるようになるかなあ。

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